ヴェネチア・ビエンナーレの「国別パビリオン方式」はいつまで有効か?
近年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の移り変わりから、同芸術祭の「ナショナル・パビリオン」(国別参加方式)の今日における有効性や、その展示に見られる芸術と政治の距離(ジャック・ランシエールの「政治的芸術のパラドックス」)について考える。
グローバル・サウスからの問題提起
前回のヴェネチア・ビエンナーレ(第59回国際美術展、2022年4月23日〜11月27日)が開幕したとき、「Contemporary And (C&)」というオンラインメディアに、社会理論家で作家のエリック・オティエノ・スンバ(*1)が、「なぜヴェネチア・ビエンナーレ・モデルは時代遅れなのか?」という記事を寄せていた(*2)。「ナショナル・パビリオン・モデルを採用することで、ヴェネチア・ビエンナーレは地方主義(provincialism)を世界性(worldliness)と偽っている。そして、そのツケを払うのはグローバル・サウスのアーティストたちだ」というリードから始まり、国際美術展の最高峰と見なされてきたヴェネチア・ビエンナーレが続けている「国別参加方式」が、「世界の芸術的成果を測るセンサーとしての役割を果たせなくなっている」とし、その理由を列挙している。
今年の第60回国際美術展では、グローバル・サウスのアーティストが多数招聘され主役となった。開幕時、プレス発表会の質疑応答は、ロシア・ウクライナ戦争やイスラエル・パレスチナ情勢を背景にこれらの国の参加状況の説明要求から始まった。アドリアーノ・ペドロサ芸術監督は、ヴェネチア・ビエンナーレが国別参加や賞制度を維持する唯一の国際美術展であることを尊重し、選考には関与していないとしてコメントを控えた。去年着任し、その右派の立場から美術関係者が懸念するピエトランジェロ・ブッタフオコ会長は、ビエンナーレ側が戦争に関わる国を除外する意向はないと述べていた。また、欧米主導の美術史を覆す企画展と例年通りの国別参加方式・賞制度のダブルスタンダードがあるが、後者は各館に運営者がいるので、この場では企画展が質問の中心になる。