アートが街を活性化させる。シンガポールアートウィークに見るその取り組み(2)
マーライオンやマリーナベイサンズなど数々の観光スポットを持つ東南アジア屈指の都市・シンガポール。文化の発信に注力するこの国でもっとも重要なイベント「シンガポール・アート・ウィーク(SAW)」が今年も開幕した。国を挙げて様々なプログラムを展開するアートウィークとはどのようなものなのか? 第2弾ではギャラリー集積地区「ギルマンバラックス」やアートサイエンスミュージアム、マリーナベイサンズで開催されたアートフェア「アートステージ・シンガポール」、そしてSAWのラストを飾ったイベント「Light to Night Festival」などを紹介する。
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ギルマン・バラックス
かつてのイギリス軍将校、ウェブ・ギルマン将軍にちなんで名付けられたギルマン・バラックス。ここは1936年にイギリス軍第1大隊のために特別に建てられたもので、シンガポール独立後も、シンガポール軍の徴兵訓練場として使用されてきた。
この元軍用地がシンガポールを代表するアートスポットになったのは2012年のことだ。敷地内にはシンガポールのChan + Hori Contemporaryをはじめ、中国のShanghART GalleryやPerl Lam Gallery、日本のMIZUMA ART GALLEREYやOTA FINE ARTSなど、シンガポール国内外の12ギャラリーがスペースを構えており、シンガポールにおける現代アート界の発信地とも言える。
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そんなギルマン・バラックスでは、SAWにあわせて初となる大規模イベント「DISINI」が始まった(9月30日まで)。「DISINI」はマレー語の副詞で「向こう側」を意味する「di sini」から引用されたもの。「DISINI」では、地元で活動するファッションコレクティブ「マッシュアップ」によってデザインされたDISINIパヴィリオンを建設。ここでは今後、トークイベントやワークショップ、ダンスなど様々なイベントが催されるという。
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加えて、「DISINI」ではギルマン・バラックスの各所に野外作品を設置。第1弾としてシンガポールのドーン・ウをはじめとする7名のアーティストの作品展示がスタート。さらに3月には第2弾の作品が発表される予定になっている。
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また、ギルマン・バラックスでは1月26日の夜に「ART AFTER DARK」と題されたナイトパーティーが開催。全ギャラリーが参加したこのイベントでは、各ギャラリーの夜間開廊のほか、無料のライブコンサートや屋台などが出店し、多くの人たちが一夜限りのアートの祭典を楽しんでいた。
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アートサイエンスミュージアム
空中に浮かんでいるような「インフィニティプール」で有名な「マリーナベイ・サンズ」。ここに位置するアートサイエンスミュージアムはシンガポールに来たら欠かさず見ておきたい。蓮の花のかたちを模した独特のデザインが目を引くこの美術館では、いまも見られる2つの展覧会を紹介する。
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一つ目は、東京でも常設美術館をオープンさせることで話題を集めているウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」による常設展示「FUTURE WORLD: WHERE ART MEETS SCIENCE」だ。美術館のギャラリースペース全体の4分の1を占める1500平米もの広大な空間に展示されているのは、インタラクティブな16の作品。
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展示は「自然」「街」「公園」「宇宙」の4ゾーンで構成された空間を巡りながら体験するもので、無数のLEDによって宇宙空間を表現した《クリスタル ユニバース》をはじめ、紙に描いた絵が画面上に立体として出現して動きだす《お絵かきタウン》など、様々な作品を一度に見ることができる。子供も楽しめる作品が多いのが特徴だ。
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いっぽう、同館では世界トップクラスのストリートアーティストたちによる東南アジア初の展覧会「アート フロム ザ ストリート」(6月3日まで)も見逃せない。
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同展は、ストリートアートの専門家でもあるギャラリストのマグダ・ダニスがキュレーション。バンクシーやシェパード・フェアリー、フューチュラ、インベーダー、JRなど、世界的に活動するストリートアーティストたちが参加し、展示室をジャック。大規模な壁画やインスタレーション、映像、ドローイングやスケッチなどでストリートアートの40年の歴史を振り返るとともに、本展のために制作された作品を観ることもできる。
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アート・ステージ・シンガポール
2011年に始まり、今年で8回目の開催を迎えたアートフェア「アート・ステージ・シンガポール」。「マリーナベイ・サンズ」の巨大なコンベンションホールを舞台に、約80のギャラリーが参加する国内外ギャラリーが参加する東南アジアでもっとも巨大なアートフェアだ。
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近年、出展ギャラリー数の減少が見られるものの、プレビューには多くのメディアや関係者、VIPが参加。今回はスペシャル・エキシビションとして、フェルナンド・ボテロの巨大彫刻が数体会場に展示されたほか、モディリアーニによるブロンズの巨大な頭部像や、アンゼルム・キーファーの巨大な平面作品などが会場に色を添えていた。
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これに加え、「モビール」で知られるアレクサンダー・カルダーの平面作品にフォーカスした企画展「カルダー・オン・ペーパー」や、若手のファッション・デザイナーをフィーチャーしたコーナーなど、販売だけでなく見せることにも注力している点が印象的だった。
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LIGHT TO NIGHT FESTIVAL
SAWでもっともアイコニックなイベントとなったのが、夜のシンガポールを彩った「LIGHT TO NIGHT FESTIVAL」だ。
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今回で2回目となったこのイベントは、1月19日から28日の10日間にわたり開催。プロジェクション・マッピングやコンサート、トークイベント、マーケットなど数々のプログラムが実施された。なかでも「ART SKINS ON MONUMENTS」と題されたプログラムでは、ナショナル・ギャラリー・シンガポール(旧最高裁判所側)やヴィクトリア・シアター&コンサートホールなど4つの施設で30組のアーティストによる作品をマッピング。
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また、ナショナル・ギャラリー・シンガポール(シティホールビル側)では「CHROMASCOPE」と題してオーストラリアのクリエイティブスタジオ「SPINEX GROUP」が5つのプログラムを展開するなど、夜のシンガポールを鮮やかに彩った。無料で楽しめるイベントだけに、市民も多く駆けつけ、まるで「フェス」のような盛り上がりを見せていた。
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12日間にわたって、シンガポールの街全体を巻き込んで行われたシンガポール・アート・ウィーク。それぞれ特色ある美術館やギャラリーなどが大きな枠組みのなかで一緒になり、文化の力で街全体を活性化させようというこの取り組みは、行政の主導力が強いシンガポールならではだろう。そしてそれがひとりよがりのものではなく、参加する市民もそれを享受し、楽しみながら美術に触れている様子もうかがえた。シンガポールだけでなく、アジア各国が文化の発信に注力するなか、このアートウィークがどのような進化を見せるのか、注目していきたい。
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