フランシス真悟インタビュー。色と形が生み出す空間の広がり
空間と融合する抽象表現を展開するアーティスト、フランシス真悟の国内初の大規模個展「フランシス真悟—色と空間を冒険する」が、6月9日まで茅ヶ崎市美術館で開催されている。展覧会について、そして自身の制作のルーツについて話を聞いた。
美術館空間とつくった光と反射
──茅ヶ崎市美術館の2フロア3展示室を利用しての大規模な個展を開催するに際し、どのように展示構成を考えたのでしょうか。
美術館のエントランスを入って最初の展示室をどうするかまず考えました。この展示室の空間は特徴的で、天井が高く天窓から光が入る部分と、天井が低く自然光が入らない部分のふたつに分割することができます。「Interference」というタイトルのシリーズは、光の反射や作品との距離感によって色の表れ方が変わる、ある種の現象を生み出す作品なので、まず光が入る吹き抜けの下の空間に「Interference」を展示することから決めました。
そして展示室の残り半分、天井が低い方のスペースでは、その「Interference」とコミュニケーションをするように作品を展示したいと思い、「Infinite Space」のシリーズを選びました。こちらは色自体を空間として扱う作品です。
──光で現象を生み出す作品と、色自体の奥行きに空間を生み出す作品。それぞれが互いを引き立て合う印象が空間全体に生まれています。いずれのシリーズも今回の展示に合わせて新作を手がけられたそうですが、まず「Interference」シリーズの新作がどのように生まれたのかお聞かせください。
昨年、銀座のメゾン エルメスでは「Interference」シリーズの高さ7メートルの巨大な壁画を制作しましたが、キャンバスとしてはこれまでで最大となる正方形の作品を5点、そして、初の試みとしてキャンバスを円形にした作品1点を手がけました。正方形の作品は、円がモチーフの3点を壁に並べ、正方形がモチーフの2点は向かい合うように展示しました。さらに天窓から落ちてくる光の変化が、作品のうえに現象を引き起こします。中央のソファに座って鑑賞すれば、太陽に雲がかかったり晴れたりという変化が目に入ってきますし、歩いて見ていると、モチーフのかたちの変化を光の移ろいによって感じることができます。
正方形がモチーフの作品制作にあたっては、建築的で幾何学的なミニマリズムの表現も参照しています。キャンバスのかたちをそのままコピーして、同じかたちを小さくしてなかに描く手法がひとつ。もうひとつは、そのスクエアのなかに円を描く手法です。フランク・ステラやドナルド・ジャッド、カール・アンドレなどが当時実験したコンポジションを私なりに光を用いて試しました。そうした空間全体を考えてから、下地の色を新しく試したり、茅ヶ崎の海岸の光る砂浜をイメージして粒子が大きめの樹脂を初めて試し、光の反射を強調したりしました。
光と色の複雑な関係
──初めての素材を試したことでどのような変化が作品に生まれたのでしょうか。
《Radiant Reflections (goldenblue)》という作品は、カラースペクトラムで対に位置する黄色と青の作品で、赤も用いています。何層かにレイヤリングして描いているので、モチーフの正方形のエッジに赤が見えたり、角度によって青の下に赤が感じられたりもする。青と黄色の作用に関しても、実験的な組み合わせをしています。ジョセフ・アルバースは『インタラクション・オヴ・カラー』(1963)という著書を残していますが、要するに色の相互作用です。色の組み合わせによって、他の色の影響を受けて違う色に見えてくる。この作品だと、光があたると青が浮かび上がってきますが、光らない状態だと青が黄色味を帯び、赤が緑っぽく見えてくる。黄色に引っ張られることで、そのような変化が生まれるんですね。
──「Interference」と対面するかたちで、より色の強い「Infinite Space」のシリーズが並びます。
色が空間になる、色は空間である、といったペインティングの理論があります。カラーフィールドのペインターたち、バーネット・ニューマンやマーク・ロスコなどの系譜ですね。ここに展示した「Infinite Space」のシリーズは、地下1階に展示した作品《Blue's Silence》の作風から展開したシリーズなのですが、モノクロームのプレーンの画面に1本線が入り、画面の上下が溶けてフェイドアウトすることで、凝縮した色のなかに空間が生まれています。