名和晃平セレクション・CAF賞選抜展 注目作家インタビュー①
11月19日にホテルアンテルーム京都で開幕した「CAF賞選抜展」。同展には、これまで過去3回にわたって開催された「CAF賞」の受賞者の中から、現代美術家・名和晃平が厳選した若手アーティスト16人が名を連ねている。ここではその中で、特に注目したいアーティスト6人をピックアップし、全3回にわたって紹介。それぞれのバックグラウンドや作品に込めた思いなどを掘り下げていく。第1弾は第1回CAF賞(2014年)で最優秀賞の増田将大と、同年優秀賞・名和晃平賞の畑山太志。
撮影とプロジェクションの積層―増田将大
増田将大は1991年静岡県生まれ。現在、東京藝術大学大学院美術研究科在籍中。第1回CAF賞では、自身のアトリエをモチーフにした《Intervening space》を発表した。対象を撮影し、その画像をプロジェクターで同じ場所に投影、そしてまた撮影、というプロセスを繰り返して、微妙なズレと重なりを含んだシルクスクリーンの作品だ。「時間と光がテーマ」と語る増田。「アトリエだったら作業しながら撮影とプロジェクションができるので、自動的に時間の経過が反映できるのかなと思って《Intervening space》を制作しました。この方法でつくった最初の作品です」。増田にとって実験的ともいえる作品が、最優秀賞というかたちで評価された。
ではこの手法はどこから生まれたのか。「映画が好きで、特にアメリカのB級映画が好きなんです。フィルムの画像に光をあて、スクリーンに投影する。その画像の連続が物語をつくりだし、上映している空間の時間そのものを支配する構造に興味を持ちました。過去に、室内に映画を投影して、日常的な光景に別の画像を入れ込んだような状態を描いた作品をつくったことがあるのですが、そのときは筆を使って描いていました。けれども、その肉筆感がコンセプトや画像に合わないと感じ、そこからシルクスクリーンを使うことにしました」。
2014年の受賞から2年が経ち、選抜展に選ばれた。この2年間、増田はどのように作品と向き合ってきたのか。「(受賞した時)自分の中で、これで今後何作もつくっていけるのか......もっとクオリティを上げていかないといけないけど、どうしたらいいのか。プレッシャーを感じていました」。もともと油画専攻出身の増田。受賞作を制作するまで、シルクスクリーンを扱ったことがほとんどなかったが、自分の思ったように表現ができるよう、技術的な向上を図ってきた。素材を扱えるようになった今、コンセプトについてもさらなる発展を目指している。
今回の選抜展では一転、風景をモチーフにした。「自分の考える"相対的な時間"を表現するために、身近なものから離れてみることにしました。人の気配がなく、周りに建物もない茨城県のとある風景。取材に訪れたとき、時間が静止しているように感じました。本来は常に変容していく木や水といったモチーフですが、この光景を撮影して自らの手で動かして操作できたら面白いんじゃないかと」。
今年度で大学院を修了する。「修了の前に、自分の中で確認にもなったので良かったです」と本展を振り返る。学部時代、アーティストの大庭大介に、アーティストを職業としてやっていく生き方について聞かされた。それが今の増田に大きな影響を与えた。「修了後はプロのアーティストを目指して、じっくりとつくりこみながら、発表していこうかなと思っています」。今後は今の手法を立体やインスタレーションへ発展させることも視野に入れている。さらなる高みを目指す。
見えない「存在」を描きたい―畑山太志
1992年神奈川県生まれの畑山太志は現在、多摩美術大学大学院美術研究科に在籍。さまざまな白で緻密に描き込まれた縦194センチメートルの《在り処》で第1回CAF賞優秀賞・名和晃平賞を受賞した。そこに描かれていたのは、大きな御神木だ。過去にいくつも植物をモチーフにした作品を描いている畑山。しかし「植物に興味があるわけではなくて、植物によって導かれる空間が大事」だと語る。
「森に入ったとき、空気の感じ方が違う。それぞれの森には違う空気があって、その目に見えないもの──感覚みたいなものを絵に落とし込めないかと考えていました。存在感をどう表現するのかという視点で、この作品は描かれています。自分が見ているものは、本当にそのものとして存在しているのかを疑う。常識に対してアプローチを変えてみるということです」。真白な作品であるがゆえに、画像審査で落とされるのではないかという不安もあったが、見事に受賞。「やりきった作品だから、落ちてもいいとは思って応募しましたが、現物を見て貰える機会に恵まれて嬉しかったです」。
高校生の頃は、膨大なモチーフを集合させた緻密なペン画を描いていた。「この世界にあるもの全部描きたかったんです。すべてのものを等価値で扱っていくという感覚がベースにありました」。小学生の頃から「美大に行く」という夢は抱いていた。「大学受験で予備校に通う際、やりたいことはなんだろうと考えた時、自由に描けるものとして油画を選びました。多摩美に入学して、やりたいことを1作1作段階的に続けてきました。それが今につながっている。最近、発表の機会が増えてきて、ようやくアーティストとしてのリアリティを持つようになりました」。
選抜展では、画面全体に筆致が走る《水々景》を発表した。「オールオーバーで、すべてのものが空間として、体験として迫ってくるような作品として展開していこうと考えました。自分が世界に対して"油断した瞬間"を描いています」という畑山。「(自分に)隙ができた瞬間に垣間見た景色が、今まで知っていたものと全然違うモノに見える瞬間。枠組みを超えてくる瞬間を描きだせるか。世界にはたくさんの眼差しが隠れていて、その隠れている眼差しをいかに自分の中に招き入れるかということを考えています。枠組みを超えた絵画に、鑑賞者が出会うことで、新しい体験が生まれればいい。そういう新しい「体験できる絵画」を目指しています」。
現在は修了制作の真っ只中。「具象的なものから、抽象的なものへと段階を踏んできた。今までやってきたものを結びつけ、より複雑な画面空間として、面白いものができたらなと思っています。評価を受けた作品とは違ったかたちのものも、どんどんやっていきたい」。着実に、しかし興味の赴くままに歩んでいく。