横尾美美はなぜ動物を描き続けるのか? 「me ISSEY MIYAKE」との協業から紐解く
ファッションブランド「me ISSEY MIYAKE(ミー イッセイ ミヤケ)」とアーティスト・横尾美美との協業により、新たなシリーズ「KISSING」が4月15日より発売される。「me ISSEY MIYAKE」との協業を通して感じられた変化や作品制作について横尾美美にインタビューを行った。
4月15日から、鮮やかな色彩で緻密な世界観を独創的に表現するアーティスト・横尾美美の作品が「me ISSEY MIYAKE(ミー イッセイ ミヤケ)」のアイテムとして発売される。「KISSING」 と題された4回目となる今シーズンでは、花々に囲まれたキリンの親子、食べ物と戯れるベビーライオンが描かれ、トップスやボトムスに加えてソックスやバッグも新しくラインナップに登場する。
日頃から動物園に足繁く通い、「どこか内面的に彼らと通じ合える瞬間がある」と語る横尾だからこそ引き出せる動物の豊かな表情や溢れる生命感。作品制作も同じように彼らと心を通わせながら、終着点を見つけていくそうだが、制作中の心境は決して穏やかなだけではない。
ときを経て様々に変化する心境が鏡のように作品へ反射し、その反復によって自身の内面も豊かになっていくことで、自身の洋服の着こなしも変化してきたという。動物を描くときの意識や「me ISSEY MIYAKE」との協業を通して感じられた新しい発見について話を聞いた。
──「me ISSEY MIYAKE」とのシリーズは今回で4回目となるそうですね。これまで猫科の動物を中心にしながら、今回は初めてキリンが登場するなど色々な動物を描かれていますが、動物のどのようなところに魅力を感じていますか?
横尾美美(以下、横尾) とくに作品に活かす意識ではないのですが、ほぼ毎日動物園に行って1日ずっと観察していると、時々彼らと波長が合う瞬間があるんですよね。たまに声に出して語りかけちゃうときもあるのですが、心のなかで念じて話しかけていると自然に彼らも動きでレスポンスしてくれて。どこか内面でそういうふうにつながって、親しみを持って会話できることに面白さを感じています。
──作品制作の際は、そこで体験した記憶をもとに描いているのでしょうか?
横尾 写真をもとに描く場合もありますが、描き始めると自然と似たような感覚になってきますね。どの動物を描くにしても必ず右目から描き始めていて、目が決まった瞬間にパッとそこに生命が宿るんです。もちろん全部が全部そうはうまくいかないので、描きたくてもなかなか描けないときもあって。そういうときは動物園で動物に語りかけるように、絵の向こう側にいる対象に「お願いだから描かせて」って話しかけて、対話を始めるとそこから気付けば作品が出来上がっています。だから、よく「どこを作品の完成とするのか」とインタビューで聞かれることがあるのですが、彼らとの会話は延々に続けてられるからこそ、しばらく作品から距離を置いてもう一度見直したときに、最終的に彼らの方から発光する生命感を感じられたら筆を置くことにしています。
──今回のテーマ「KISSING」について教えてください。
横尾 もともとキリンの親子を描いた作品のタイトルが《Kissing Baby Giraffe》(2006-07)だったことに由来しています。16年前に描いていた当時は、先ほど話したように制作するなかで、動物の親子の愛情が溢れ出てきたときに完成だと感じました。でもだからといって、制作中の自分の心境は決して愛に溢れるものだけではなく様々な喜怒哀楽を経ているので、この作品を通してひとつのメッセージを伝えることは難しいですね。
──ヒーリングとはまた違いますけど、彼らと対話するなかで湧き出てくる自身の感情が制作の面白みでもあるのでしょうか?
横尾 そうですね。じつは、平和な気持ちだけで制作しているときが一番心配だったりします。一度作品ができあがってしまえば、それまでどのような感情で描いていたのか忘れてしまうんですけどね。作品は、自分のありのままの姿を見せつけられる鏡のような存在ではあるので、描けば描くほど自身の内面から削って、削られていくような過酷な心境になっていきます。一見、作品はポップで平和的に見えて、よく鑑賞者からも明るい印象をもっていただけるんですけど、じつは制作中は幼少期の記憶まで遡るほど内面を掘り下げていくので、決してポジティブではない心境で描いてることのほうが多いんです。
──一度完成した作品が、「me ISSEY MIYAKE」との協業によって「服」にアウトプットされる新鮮さはありましたか?
横尾 協業するなかで、ある程度 「me ISSEY MIIYAKE」のチームに委ねることもあったので、そういう意味では私自身がどのようなアイテムになるのか一番ワクワクしていたかもしれないです。自分の手元から作品が離れて、また新しい表情になっていて新鮮でした。今回は、カラー展開とアイテム展開の両方に初めての試みがあって。これまで「me ISSEY MIYAKE」独自の発色のいいビビットカラーのみの展開でしたが、今回は初めてベージュピンクとパステルパープルなど淡い色合いの組み合わせも登場し、ソックスやバッグなど小物からパンツとスカートまでアイテムの展開も広がりました。シリーズ全体に奥行きが出たことで、初めて原画のディティールの色もそれぞれの配色に合わせて変えてみました。
──実際アイテムを着てみていかがですか?
横尾 20代の頃から個人的に「ISSEY MIYAKE」を着ることに憧れを抱いていて。でも、その頃はまだ自分自身が着られているような感覚で、いつか納得して着られるといいなと思っていました。そうして日常的に「me ISSEY MIYAKE」を着ていくなかで、最近になってようやく自分自身を一番表せている洋服だと感じられるようになりました。「me ISSEY MIYAKE」のよさは、あらゆる体型や身長に関係なく、その人自身の個性を引き出しつつ着れるところだと思っていて。今回のシリーズも様々な人に着こなしていただくことで、また新たな発見や刺激が生まれることを楽しみにしています。
──今後の展示などあれば教えてください。
横尾 今年秋以降に個展開催を予定しています。個展に向けて、いまは作品を制作中です。