1位は「Black Lives Matter」。2020年アート界の「Power 100」ランキングが発表
イギリスの現代美術雑誌『ArtReview』が毎年発表している、アート界でもっとも影響力のある100組のランキング「Power 100」の2020年版が発表された。
イギリスの現代美術雑誌『ArtReview』が毎年発表している、アート界でもっとも影響力のある100組のランキング「Power 100」。その2020年版が公開された。
今年の1位は、今年アメリカ・ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイドの死亡事件に端を発して世界中に広がっている反人種差別の運動「Black Lives Matter」(BLM)。2013年に黒人活動家のアリシア・ガーザ、パトリッセ・カラーズ、オーパル・トメティによって設立され、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴えるこの運動は、2020年のアート界にも大きな影響を与えた。
アメリカやヨーロッパで問題視される歴史的人物の彫像の撤去や、ここ数年間に行われている黒人アーティストに対する再評価、ギャラリーの多様化への取り組み、美術館コレクションの脱植民地化を試みるための所蔵品整理なども、この歴史的な問題を是正する試みとみなされている。
『ArtReview』では、BLMについて次のように評価している。「アメリカで警察の残虐行為に対する抗議から始まったBLMは、イギリスから南アフリカに至るまで、国際的なアート界の文化的景観を劇的に変えてきた。そして、それがアート界に広がるにつれ、誰もが作品をつくり、コレクションや展覧会を展示し、一般の人々と関わる方法にも影響を与えている。その過程で、私たち自身の偏見や複雑さ、同盟関係についての考察、自己変革を引き起こしてきた」。
これに続くのは、2022年に行われる「ドクメンタ15」の芸術監督に任命されたインドネシアのアート・コレクティブ「ルアンルパ」で、3位は欧米の美術館コレクションの脱植民地化を主張する学者、フェルウイン・サーとベネディクト・サボワ。そして4位には、昨年の21位(2018年は3位)から大幅に順位を上げた、女性へのセクシュアルハラスメントや虐待を批判するムーブメント「#MeToo」、5位にはアメリカの哲学者フレッド・モーテンがランクインしている。
昨年1位だったニューヨーク近代美術館(MoMA)の館長グレン・ラウリーは7位に、ラリー・ガゴシアン(29)、デイヴィッド・ツヴィルナー(30)、イワン・ワース、マヌエラ・ワース&マーク・パイヨ(30)など、これまで高順位を続けていたメガギャラリーの創設者たちもそれぞれ順位を下げた。新型コロナウイルスが美術館の活動やギャラリーのビジネスモデルに与えた多大な影響も垣間見える。
いっぽうで、社会正義と多様性への新たな取り組みを行っている学者や慈善家は、今年数多くニューエントリーしている。黒人の歴史やジェンダーに関する作品を発表し、現世代のアーティストに影響を与えた学者サイディヤ・ハートマンや、文化団体や市民社会における不平等の是正に向けた、世界屈指の慈善団体・フォード財団のディレクターであるダレン・ウォーカーは、それぞれ9位と11位に今年初めてランクインした。
なお、アジアを拠点に活動しているエントリーとしては、香港のコレクターでK11アート財団の創設者であるエイドリアン・チェン(12)、アーティストの曹斐(ツァオ・フェイ、27)、北京・ユーレンス現代美術センター(UCCA)の館長であるフィリップ・ティナリ(63)、コレクターでLGBT人権活動家のパトリック・ソン(88)などがいる。