杉本博司が設計!MOA美術館が
17年2月にリニューアル開館
1982年に熱海に開館し、現在改修休館しているMOA美術館が、2017年2月5日にリニューアルオープンを迎える。基本設計とデザイン監修を手がけるのは、現代美術家・杉本博司と建築家・榊田倫之が主宰する「新素材研究所」。「創立者・岡田茂吉の願いを継承した美術館」「伝統と現代を融合したデザイン」「素材の見立てによる空間の創造」の3つをコンセプトに、大きく生まれ変わる。
美術品のための設計
「ロンドンギャラリー(新素材研究所設計、2009年)を見たときから『これは』と思って(杉本への依頼を)決めていた」(内田篤呉MOA美術館長)という今回の改修では、共用部分となるロビーエリアをはじめ、展示室やショップ、カフェなどをリニューアル。古代や中世、近世に用いられた素材や技法を、現代にどう再編して受け継いでいくかという課題に取り組む「新素材研究所」が様々な試みを行っている。
「スター建築家が設計した世界中の美術館で個展を行い、辛い思いをしてきた。いつか自分で使い勝手のいい美術館を作ってみたいと思っていた」と語る杉本。既存部分との調和や、美術品を最も美しく見せるための空間づくりを意識して進められてきたというリニューアル。その具体的な中身を見てみよう。
前代未聞の黒漆喰
MOA美術館の改修で、まず注目したいのが来館者を迎えるメインエントラスドアだ。高さ4メートルの巨大なドアは、漆芸家で人間国宝の室瀬和美による漆塗のものへと変更。杉本の「室町時代の根来塗(黒漆による下塗りに朱漆塗りを施す漆器)の風味を出したい。マーク・ロスコの絵画にも似て、東大寺の根来盆にも似て、そのどちらでもないもの」というコンセプト案に基づき、桃山時代に流行した片身替(左右の半身が異なる紋様のもの)のデザインとなる。
大きく変化した展示室には、「左官業界でも前代未聞」(杉本)となる幅20メートルにおよぶ黒漆喰の壁が挿入される。「江戸黒」と呼ばれる深い漆喰には職人の手の跡が残り、それ自体が「素晴らしい抽象絵画のよう。サイ・トゥオンブリーの初期の絵のように見える」(同)。黒漆喰はガラスケースへの映り込みを防ぐほか、展示室に新たな動線を生み出すなど、様々な効果を生みだす。また、今回の改修では野々村仁清の国宝「色絵藤花文茶壺」のための特別な展示スペースも新設。こちらも同様の黒漆喰によってドーム状に囲われ、「黒漆喰の宇宙のような空間」(榊田)になっているという。
このほか、樹齢数百年の行者杉を使った框(かまち)を配し、畳が敷かれたケースで展示される尾形光琳の《紅白梅図屏風》や、新たに開発された免震機能を備えた畳表、光学設計された照明など、随所に杉本らしい工夫が見られる。
リニューアルオープンを飾る展覧会は、リニューアル記念名品展+杉本博司「海景ーATAMI」。尾形光琳の《紅白梅図屏風》が1年ぶりに公開されるほか、杉本博司が同作を撮影し、2015年に発表された《月下紅白梅図屏風》も展観。また杉本の代表作である「海景」シリーズから、熱海の海をテーマにした「海景ーATAMI」も展示される。
杉本は同じ静岡県内で三島に「IZU PHOTO MUSEUM」(2009年開館)を、小田原では「小田原文化財団 江之浦測候所」(2017年秋開館予定)を手がけており、今後は杉本建築の"聖地巡礼"も可能になりそうだ。