2019.7.27

温泉以外も楽しめる。「城崎温泉」で知られる兵庫県豊岡市のここに注目

平安時代より知られる名湯「城崎温泉」。英語の旅行ガイドブックで世界一のシェアを誇る『ロンリープラネット』では日本のベスト温泉のひとつにも選ばれたこの温泉があるのが、兵庫県豊岡市だ。温泉に加え、近年様々な文化施設が新設されるこの地域の魅力を紹介する。

さんぽう西村屋 本店
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 旅行ガイドブックで世界一のシェアを誇る『ロンリープラネット』で、日本のベスト温泉のひとつにも選ばれた「城崎温泉(きのさきおんせん)」。この温泉を楽しめるのが、兵庫県の北部にあり、同県でもっとも大きな面積を持つ豊岡市だ。

 夏場はカヌー、冬はスキーなど、温泉以外にも四季折々のアクティビティを体験でき、蟹やコウノトリなどでも有名な豊岡市だが、同市が近年力を入れているのが新たな文化の創出。人口8万2000人の「小さな世界都市」を目指す同市の魅力を紹介していこう。

さんぽう西村屋 本店

さんぽう西村屋 本店

 まず紹介するのが、2019年4月にオープンしたばかりの食文化施設「さんぽう西村屋 本店」。市が主催した公募プロポーザルを経て計画されたこの施設は、レストランダイニング、サロン、ギフトストアからなり、地産地消の食のサイクル、老舗旅館「西村屋」が培ってきた日本料理、城崎温泉に継承された文学や芸術をより深く体験できる文化発信拠点でもある。

さんぽう西村屋 内観
松井亮がデザインしたコースターやお盆。一部はギフトストアで購入することができる
廣村正彰がデザインしたサイン

 クリエイティブディレクションを行ったのは、建築家の松井亮(松井亮建築都市設計事務所主宰)。建物のサイン計画やロゴは廣村正彰(廣村デザイン事務所)、ユニフォームデザインは廣川玉枝(ソマルタ)、ウェブ映像制作はディスカバリー号が担当し、松井の指揮のもとでデザインチームが一体的に計画されている。「東京と城崎を3年にわたって往復し、内容を詰めていきました。日本の古来の様式を取り入れた空間のディティールにも注目していただけたら嬉しいです」と話す。​

奥に見えるのが三柱神社

​ この施設に隣接するのは、名称の由来にもなった火と竈の守り神「三宝荒神」が祭られる三柱神社。施設の新設にあわせて整備されたこの神社も訪れてほしい。

西村屋 本館

西村屋 本館

 74軒もの旅館が点在する城崎温泉。そのなかで、年間宿泊者の約5分の1が訪日外国人と国内外から高い人気を誇るのが、創業150周年の「西村屋 本館」だ。部屋数はわずか34室。庭を囲むように旅館が建てられているため、各部屋からはそれぞれ違う景色を楽しむことができる。

「平田館」より、吊り橋を思わせる通路も珍しい設計のひとつ

 同館にて注目したいのは、数寄屋建築の巨匠・平田雅哉が設計し、1960年に増築された別棟「平田館」。欄間、袋戸、棚明り取りなど、室内の随所に清新で創意に満ちた意匠を見ることができる。当時としては斬新な資材を使い、フランク・ロイド・ライトの影響を受けたというモダンな設計は、いまなお新鮮な印象を放っている。

展示室

 また、館内には魯山人らの作品が飾られる展示室があるほか、至るところに調度品が設置されているため、宿泊の際には館内めぐりも一興だろう。

城崎文芸館

1階に展示中のライゾマティクスのインスタレーション

 城崎温泉は、文学ともつながりが深いことをご存知だろうか。小説家の志賀直哉が怪我を負い、1913年に湯治のために城崎温泉を訪れた際の出来事を記した『城の崎にて』は、志賀の代表作のひとつ。また、白樺派を中心に多くの文人墨客が訪れたことでも知られている。​

展示風景より、志賀直哉に関する資料

​ そうしたつながりを背景に、城崎温泉ゆかりの作家に関する展示を行うスペースとして豊岡市立城崎文芸館(通称:KINOBUN)は1996年に開館。2016年には展示内容を大幅にリニューアルし、1階の無料スペースではライゾマティクスによるインスタレーション作品が常設されるなど、幅広い層の人々が楽しめるものになっている。

企画展示室より、「本と温泉」に関する資料

 常設展では、志賀直哉や白樺派の作家の資料のほか、富岡鉄斎の《中孝之図》や桂小五郎の書など、城崎ゆかりの文人たちにまつわる所蔵作品を多数展示。1年に2度のペースで行われる企画展では現在、「『本と温泉』のつくり方。」(〜2020年5月31日)が開催中。出版レーベル「本と温泉」が発行する、城崎温泉でのみ購入可能な本づくりの裏側を紹介している。これまで江口宏志、万城目学、湊かなえらとコラボレーションした小説を発刊してきた「本と温泉」。次回は年内に2人組ユニット「tupera tupera(ツペラ ツペラ)」とのコラボレーションを予定している。

城崎国際アートセンター

「城崎国際アートセンター」の1階。手前は、ブックディレクターの幅允孝がディレクションした「うごく本棚」

 城崎温泉のある豊岡市では現在、演劇、音楽、ダンス、美術など多彩なジャンルのプログラムを市内で開催するアート祭典「豊岡アートシーズン」の夏会期が開催中(〜9月30日)。その拠点のひとつとなるのが、「城崎国際アートセンター」だ。

 2014年4月にオープンした城崎国際アートセンターは、ダンスや音楽に特化したアーティスト・イン・レジデンスの施設で、世界各地からアーティストの受け入れを行ってきた。アーティストは最大3ヶ月の滞在が可能であり、制作した作品をセンターで発表。ワークショップなどのイベントを通して市民との交流も行ってきた。

 同センターの芸術監督を務めるのは劇作家、演出家の平田オリザ。平田は劇団「青年団」の主宰者としても知られるが、その「青年団」は、30年以上拠点としてきた東京・駒場を離れ、2021年までに城崎に拠点を完全移動。そして同年、平田が学長を務める城崎初の公立大学も設立予定だという。それらに加え、今年9月には世界規模の演劇祭を目指す「富岡国際演劇祭」(仮称)も平田の指揮のもとで開催される。

 たんなる温泉地というイメージを脱し、文化拠点としてめまぐるしく変貌をとげる城崎温泉と豊岡市。これまでに紹介した施設のほかにも、天然記念物である玄武洞、日本の棚田100選にも選ばれた棚田、牛舎、有機農家の野菜など、自然豊かな土地ならではの魅力、見どころも様々。ぜひ一度は訪れてみてほしいエリアだ。

天然記念物の玄武洞。近隣の玄武洞ミュージアムでは豊富な資料を見ることができる
日本の棚田100選に選ばれた棚田
牛舎
夜の温泉街