「バナナ」に1600万円。アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ2019が開幕
今年で18回目を迎えたアメリカ大陸最大級のアートフェア「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ」が、12月4日にマイアミ・ビーチ・コンベンション・センターで開幕した。新たな大規模プロジェクト「メリディアン」を含む、今回の見どころをレポートで紹介する。
今年で18回目を迎えるアメリカ最大級のアートフェア「アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ(ABMB)」が、12月4日にマイアミ・ビーチ・コンベンション・センターで開幕した。
マイアミ・ビーチの市長であるダン・ゲルバーは、開幕直前のメディアレセプションで、同フェアについてこう語っている。「初回の開催から18年が経ち、マイアミ・ビーチのアートシーンには様々な変化がありました。パブリック・アート作品が大量に設置されており、どこでもアートを見ることができ、アートコミュニティがより多様化になってきました」。
今回のフェアには、世界33の国・地域から269のギャラリーが参加。メインセクションには、世界有数の203のギャラリーが集結しており、絵画や彫刻、ドローイング、インスタレーション、写真、映像など、様々な媒体の作品を展開している。
メインセクションにあるタダエス・ロパックでは、ドイツのアーティストであるゲオルク・バーゼリッツの彫刻作品《Sing Sang Zero》(2011)が、350万ドル(約3億8000万円)の価格でアメリカのプライベートファンデーションに購入された。そのほか、ドナルド・ジャッドの彫刻やゲルハルト・リヒターの絵画は、52万5000ドル(約5700万円)〜90万ドル(約9800万円)の価格で販売。同ギャラリーは初日、約1200万ドル(約13億円)の総売上を達成した。ギャラリーのディレクター・アジアであるニック・ウッドは、「上海のアートフェアでの成功に続き、マイアミでも良い販売成績を上げられるように祈っています」と語る。
ハウザー&ワースは初日、アメリカの彫刻家であるデイビット・ハモンズの《Untitled(Silver Tapestry)》(2008)を240万ドル(約2億6000万円)で販売。今年より取り扱いをスタートさせたエドワード・クラークの絵画《Untitled》(2011)やニコラス・パーティの《Trees》(2019)も、47万5000ドル(約5100万円)と38万5000ドル(約4200万円)の価格で売れた。
ペロタンでは、マウリツィオ・カテランやエルムグリーン&ドラッグセット、ダニエル・アルシャム、村上隆、JRなど、同ギャラリーのスター的なアーティストの作品を紹介。そのうち、もっとも注目を集めたのが、カテランが15年ぶりにアートフェアで発表した新作《Comedian》(2019)だ。
大衆文化を風刺し、社会や権力、権威について皮肉で超現実的な彫刻を発表することで知られているカテラン。本作は、本物のバナナが灰色のスコッチテープで壁に貼り付けられたものであり、開幕初日には、3つのエディションが12万ドル(約1300万円)〜15万ドル(約1600万円)の価格で購入された。
ロサンゼルスのターニャ・ボナクダー・ギャラリーでは、オラファー・エリアソンの照明彫刻《Complementary orange Wednesday》(2019)やマーク・マンダースの彫刻《Iron Figure》(2009-11)を、15万ユーロ(約1800万円)〜25万ユーロ(約3000万円)の価格で販売。昨年、同ギャラリーで個展を行ったエリアソンによる吊り下げ型の照明彫刻は、幾何学的構造体の内部から光が通過し、周囲の壁の表面に万華鏡のような影を落とすものだ。その影を通し、作品内部の複雑な空間を垣間見ることができる。
韓国のKukje Galleryでは、朴栖甫(パク・ソボ)や河鍾賢(ハ・チョンヒュン)、ヘギュ・ヤンなど韓国のアーティストに加え、ジャン=ミシェル・オトニエルやエルムグリーン&ドラッグセットなど国際的なアーティストを紹介している。
同ギャラリーの関係者は、「韓国のギャラリーとして、本国のアーティストの芸術的な実践に注目する同時に、国際的なアーティストの活動も包括的に紹介したい」と話す。同日、マイアミ・ビーチにあるバス美術館で個展を開幕したヘギュ・ヤンの彫刻《Sonic Gym Brass-Dripping Odyssey》(2019)は、6万8000ユーロ(約820万円)〜7万3000ユーロ(約880万円)の価格でアメリカの個人コレクターに購入された。
7年間の空白を経て、今年のフェアに戻ってきたタカ・イシイギャラリーでは、五木田智央の絵画や、川端健太郎、川井雄仁の陶芸などを展示。初日には、五木田の絵画新作《Housekeeper Saw》(2019)が購入された。
SCAI THE BATHHOUSEでは、アーティスト・デュオであるムン・キョンウォンとチョン・ジュンホによるインスタレーションをはじめ、横尾忠則、宮島達男、アルフレド・ジャーなどの作品を紹介している。
最大3人のアーティストによる新作を紹介する「ノヴァ」セクションに参加しているNANZUKAでは、現在徳島県在住のアーティスト・森雅人による個展を開催。ポップカルチャーを反映し、具象と抽象を混み合った森の絵画と彫刻は、初日に8000ドル(約87万円)〜3万ドル(約330万円)の価格帯で完売した。
若手アーティストの個展を開催する「ポジションズ」には、カリクーン・ファイン・アーツやドキュメント、マジシャンスペースなど14のギャラリーが参加している。
今回初めてABMBに出展する北京のマジシャンスペースは、1983年生まれの中国人アーティスト・武晨(ウ・チェン)による絵画作品を紹介。アンリ・マティスの絵画《L'Atelier Rouge(赤いスタジオ)》(1911)から触発され、「The Red Studio Has No Artist」をテーマにした展示は、現在の絵画表現を批判し、自己反省するもの。本展のキュレーションを手がけた、同ギャラリーのディレクター・オブ・リサーチである陳立(レオ・チェン)は、「武はユーモアにあふれた色彩や表現を使って、シアリスな美術史について再考しています」と語る。
今年のフェアでもっとも注目されているのは、メインホールに直結している、約6000平米におよぶグランド・ボールルームで新たにローンチされた「メリディアン」だろう。ここには、普段アートフェアで展示される機会がない大規模な彫刻や絵画、インスタレーション、ライブパフォーマンスなど、34点の作品が発表されている。
同セクションをキュレーションした、メキシコのキュレーター、マガリ・アリオラは、「このセクションでは、移民や領土、性別、人種などの問題を取り扱う作品を見せています」と語る。
例えば、シアスター・ゲイツの映像新作《Dance of Malaga》(2019)は、1912年にアメリカのメーン・コーストの無人島にいる住民たちがその居住地を強制的に離れされたことを取り上げたもの。南北戦争終結後のアメリカにおける人種や領土、不平等、セクシュアリティなど複雑で絡み合った問題について考察している。
そのほか、ブラジルの近代文化を実験的・人類学的な視点から取り扱う、アイザック・ジュリアンのヴィデオインスタレーション《Lina Bo Bardi - A Marvellous Entanglement》(2019)や、美術館やギャラリーのオープニングレセプションを風刺する、トーマス・フリードマンの彫刻作品《Cocktail Party》(2015)などにも注目したい。
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ABMBと同時期に、マイアミ市内では様々なアートフェアや展覧会もスタートした。現代デザインに注目したアートフェア「Design Miami」(〜12月8日)では、ルイ・ヴィトンがアメリカのデザイナー、アンドリュー・カドレスによるオブジェ・ノマド新作を紹介。ICAマイアミやバス美術館では、スターリング・ルビー、ヘギュ・ヤンの個展を開催。新たに開館したルーベル・ミュージアムのこけら落とし展では、キース・ヘリングやジェフ・クーンズ、シンディ・シャーマン、オスカー・ムリーリョなど、100人のアーティストによる約300点の作品が展示されている。