渋谷PARCOでカルチャーフェスティバル「P.O.N.D.」が今年も開催。新たな時代に向かって思考する才能が集結
渋谷PARCOで10月17日まで開催中のカルチャーイベント「P.O.N.D.」。「IN DOUBT/見えていないものを、考える。」をテーマにした、新進気鋭の作家たちの表現が集まるこのイベントのハイライトをレポートする。
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カルチャーイベント「P.O.N.D.」が10月7日〜10月17日に渋谷PARCOで今年も開催されている。気鋭作家の作品が全館に点在するこのアートの祭典をレポートしたい。
今年のテーマは「IN DOUBT/見えていないものを、考える。」。作品を通して作家たちが様々な疑問を投げかけ、鑑賞者たちに思考することを喚起する。
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1階の正面エントランスで来場者を迎えるのは、轟木麻左臣の《ピエロ》だ。人がひざまずいた姿をモチーフとしたこの立体作品は、渋谷PARCOが「P.O.N.D.」によって通常とは異なる姿に変化していることを、その入口で意識させる。
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4階「PARCO MUSEUM TOKYO」は本企画のメインとも言うべき展示が行われており、陶芸家、写真家、ペインターなど、新進気鋭のつくり手15組が作品を展示している。
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倉知朋之介の《PoPoPot》は、実際に壺をつくったことがある3人の作家への取材をもとに制作された映像インスタレーション。視聴者が理解できない言語によるナレーションとともに、ドキュメンタリーやバラエティといった番組のパロディと思わしき、壺や蛇について紹介する映像が流れる。映像メディアの典型的な表現の持つ異質さやおかしみを、高い強度の映像で具現化している。
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第23回グラフィック「1_WALL」でグランプリを受賞した平手は、布や綿、粘土を使った人型のオブジェを使った《全然大丈夫》を展示。平手にとって「実在しない誰か」の表出であるこれらのオブジェは、来場者が自由に触ることが可能だ。直に触れることで、作品をつくるだけでなく、その作品と身体的なコミュニケーションを試みることでその実存の在り処を問う平手の手つきを追走できるはずだ。
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穴倉志信の《QISDTD-J 1.5号機》は、スロットマシンを改造し独自の精神診断を行うシリーズ「QISDTD-J」のひとつ。100円玉を入れることでゲームをスタートさせることができ、響き渡る電子音とともに機械が一方的にプレイヤーの精神診断を行っていく。スロットマシンの持つアンコントローラブルであるがゆえに射幸心を煽るという性質を批評的にとらえただけでなく、判断にいたるシステムを理解しないまま心身の健康が格づけられている現代社会への問いかけも感じさせる。
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4階のパブリックスペースでも興味深い展示が行われている。アトリウムではARとVRを組み合わせ、宇宙人たちのDJパーティーへの参加をテーマにしたEguoの作品《Alien Party》を展示。ARで異星でのパーティーの様子を覗いたり、VRで宇宙人たちのパーティーに参加し、踊り狂う異星人たちのあいだを縫って動き回ることができる。さらにARで宇宙人たちを地球に招待して踊らせることも可能で、異文化との触れ合いや、そのコミュニティに入っていくときの感情を鑑賞者に呼び起こさせる。
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同じく4階のエスカレーター横では、RIVERSIDE STORYが渋谷川で拾ったゴミを分類/記録し、さらにそれを素材とした衣服を展示している。ゴミを組み合わせることによって生まれる偶発的な美しさを、人がまとって動く衣服のかたちにすることで強調している。
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また、7階イベントスペースで開催されている「P.O.N.D. Arcade」にも注目だ。ここではインディーゲームシーンで活躍する新進気鋭のゲームクリエイター、じーくどらむす、ksym、yuta、saebashi、Toraji&Issei Yamagataの5組による作品を体験することができる。
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室内には様々なハードに実装された5組のクリエイターによるゲームが設置されている。Toraji & Issei Yamagataの《Farewells》は、ゲーム内のキャラクターがプレイするビデオゲームを操作するという、多層的な構造を持つ作品を制作。ゲーム内でつねに役割を与えられているキャラクターが、さらに別のキャラクターに役割を担わせることで、ゲーム内における様々な関係性をあらわにしている。
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じーくどらむすは同色のブロックを消していく古典的なパズルゲームである「Same Game」に、音楽的な体験性を付与した作品《Same Game,Different Music》を展示。世界中で親しまれてきたルールのもとに行われるゲームであるが、ゲームの動作とともに変化していく音楽によって、その体験はまったく新しい爽快感のあるものへと変わっている。
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「P.O.N.D.」では、渋谷PARCOの屋外での企画にも注目したい。SING通り沿いにある西側壁面には、今年も2名のアーティストによる大型のアートウォールが会期限定で登場。カナダに生まれ、表現する場として東京を選んだExit Number Fiveは様々なアクリル絵具を使い、東京のアンダーグラウンドシーンについて過去や現在から思考した作品を制作した。
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東京を拠点に活動するクリエイティブ・クルー「YouthQuake」のメンバーであるBobby Yamamotoは、多くの色が混在するカプセルを描いた。渋谷の街や人が発する色が、この場所に集約されている。
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さらに渋谷PARCOの建物の中央を貫く「ナカシブ通り」には、クリエイター4名による大判フラッグが登場。saeko、マナベレオ、senan、廣島新吉のそれぞれの表現が楽しめる。
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そしてスペイン坂に面したスペースには川谷光平が《simmer down》を展示。デジタル加工や自動生成といった時代の技術の変遷によって、その存在の有り様が変化し続けている写真というメディアについての思考がうかがえる作品だ。
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なお、渋谷PARCOでは館内のギャラリーやショップの様々な箇所で展示やアートにまつわるクリエイションに触れることができる「SHIBUYA PARCO ART WEEK 2022」も同時開催されている。ぜひ「P.O.N.D.」の作品とともに楽しんでほしい。