草間彌生や蔡國強らが共演!
「アジア回廊」で見る日中韓現代美術の交流
日本・中国・韓国の各国政府から選定された都市が、1年を通じて文化芸術による多彩なイベントや交流を行う「東アジア文化都市」。今年の美術におけるメインプログラムとして「アジア回廊 現代美術展」が8月19日、京都を舞台に開幕した。
「東アジア文化都市」は、日本・中国・韓国の各国政府から選定された都市が、1年間を通じて文化芸術による多彩なイベントや交流を行い、開催都市のさらなる発展を目指す事業。2017年、日本では京都市が開催都市として選ばれ、伝統文化や現代美術、舞台芸術、音楽、マンガ・アニメなど、様々な分野のイベントを開催している。
この「東アジア文化都市」で、現代美術が一堂に会するのが、8月19日に開幕した「アジア回廊 現代美術展」だ。舞台となるのは世界遺産として190万人(平成28年度)の来場者を誇る二条城と、元小学校をリノベーションした京都芸術センターの2会場。アーティスティック・ディレクター、建畠晢のもと、日中韓の若手からベテラン世代まで25組が共演している。ではそれぞれの会場での見どころを紹介しよう。
|二条城
主会場となっている二条城は、建物や庭園がほぼ回廊式、回遊式に連なるように配置されており、作品もその広大な城域の各所に展示されている。まず来場者を迎えるのは巨大なフルーツのバルーン《フルーツの木》(2015)だ。手がけたのは韓国のチェ・ジョンファ。日常的なモチーフをユーモラスで色鮮やかな巨大作品に仕立てた。チェはこのほかにも、伊藤若冲が大根を釈迦に見立てて描いた《果蔬涅槃図》(かそうねはんず)をそのままにバルーンで立体化した《涅槃》(2017)や、キムチ用のザル1万個を使ったインスタレーション《エアー エアー》(2017)などを展示している。
また、通常は一般公開されていない「台所」では、宮永愛子が糸に塩を纏わせた新作《結(二条城)》(2017)を展示。近年、川や海で塩を採取し収集しているという宮永が、台所というシチュエーションに寄り添い、遠くの海と二条城の台所を1本の細い糸でつなぐ。
今年、国立新美術館で大規模個展を開催するなどますます精力的な活動を見せる草間彌生は、旧作ながらもインパクトの強い《無限の網のうちに消滅するミロのビーナス》(1998)を展示。草間ならではの自己消滅をテーマにした作品が、静かな空間に強烈なアクセントを与えている。
台所に隣接し、煮炊きをしていた穴が残る「御清所(おきよどころ)」では、京都在住の谷澤紗和子がプリミティブな雰囲気をたたえる新作《容》(2017)を展開。「二条城でこれまで使われたことがない素材を使いたかった」と話す谷澤は、畳の間に大胆にも発砲スチロールを畳の上に敷き、貝で目をしつらえた焼き物のオブジェを並べた。「陶芸は火を使ってつくるものであり、貝が作品にもたらす目の穴がここの場所とシンクロすると思いました」。この場所には手びねりの陶芸の表面と、鑑賞者の足跡でできる地面のディテールが時間が経つにつれて重なっていくという狙いもあるという。
建畠が今回の「アジア回廊 現代美術展」のシンボルとも言うべき作品であると話すのが、ツァイ・グオチャン(蔡國強)の《盆栽の舟》(2017)だ。二の丸御殿の庭に突如として出現する巨大な木造の船。これは、ツァイが16年の「東アジア文化都市2016奈良市」で東大寺の池に設置した木造船を二条城に移設したもの。舟を鉢に見立て、5本の松の大木が植えられたこの作品は、それ全体が盆栽を表している。東アジア全体の文化交流を示しながらも、「東アジア文化都市自体も、ただの飾り物、一夜城にすぎない」という皮肉が込められているとツァイは話す。
2階建ての東南隅櫓では久門剛史が光と音を使ったインスタレーション《風》(2017)を見せる。来場者が上がることができない2階からは風の轟音が発せられ、1階にはすべてデザインが異なる18のガラスケースの中で電球が揺らめく。「個人的な日常の時間と、一方それと同じ時間軸で社会的な大きな決断が行われているという現状を東日本大震災以降、特に感じている」と話す久門。2階から轟く音やフラッシュとは無関係に、1階の光が無作為に明滅を繰り返すこの作品は、大きな力(2階の風と光)に影響される個人(1階の電球)が共存しているが、独立的であるという社会構造を表している。
|京都芸術センター
京都芸術センターでまず注目したいのが、京都を拠点に活動する中原浩大だ。90年代以降、レゴ・ブロックやプラモデル、フィギュアなどの既製品を用いた作品を展開し、近年では美術の範疇にとどまらない活動をしてきた中原。今回は《Educational》として3つの教室を使い、幼少期から高校時代までに中原が描いた絵、約600点を展示。京都芸術センターが元明倫小学校であったという歴史を踏まえ、自由研究の成果や、高校時代に自身の幼少期の落書きを模写したものまで貴重なアーカイブを見ることができる。
韓国のオ・インファンは、監視社会に対するメッセージを2つの展示室で提示する。互いに監視カメラが設置された部屋は、ところどころがピンクのテープで装飾され、数々のメッセージが書かれている。それぞれのスクリーンには2つの部屋の様子が映し出されるが、テープが貼られている部分=死角は映っていない。見えることと見えないこと、そして監視されることなど、普段は意識されないことを顕在化している。
中国の伝統を重んじながら、新しさを感じさせる映像を生み出す中国のヤン・フードン(楊福東)は、本展で中国戦国時代の典籍『列子』にある説話で、毛沢東が演説の中で引用した「愚公移山」を映像化した《愚公山を移す》(2016)を展示。「愚公移山」は、人力で山を動かそうとした老人・愚公を題材にした逸話だ。モノクロームで叙情的な映像からは、人間の営みの普遍性を見ることができる。
また京都芸術センターでは、具体美術協会に参加したことでも知られる堀尾貞治と、現場芸術集団「空気」にも注目したい。ガラクタを用いた《あたりまえのこと-色塗りとか》(2017)が会場の階段や壁面などを埋め尽くす様は圧巻だ。
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「アジア回廊」には「日中韓3ヶ国の作品との出会いを楽しみながら巡り歩くという祝祭感に満ちた場を出現させたい」という思いが込められていると建畠は語る。京都というここでしか味わえない雰囲気と、それに呼応する3ヶ国のアーティストたち。いまなお政治的な軋轢が絶えない日本・中国・韓国だが、そういう局面だからこそ、「アジア回廊」のような文化交流がますます重要なものとなっていることは、疑いの余地がないだろう。