• HOME
  • MAGAZINE
  • NEWS
  • REPORT
  • 「西洋絵画、どこから見るか?」展(国立西洋美術館)開幕レポ…
2025.3.11

「西洋絵画、どこから見るか?」展(国立西洋美術館)開幕レポート。2つの美術館所蔵品が海を越えて一堂に

国立西洋美術館で、「西洋絵画、どこから見るか?」(通称「どこみる展」)が開幕。アメリカのサンディエゴ美術館と国立西洋美術館の所蔵品をあわせた88点を展示し、ルネサンスから19世紀末に至る約600年の西洋美術史をたどるものだ。会期は6月8日まで。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、フアン・サンチェス・コターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》(1602頃、サンディエゴ美術館蔵)
前へ
次へ

 国立西洋美術館で、「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで サンディエゴ美術館 vs 国立西洋美術館」(通称「どこみる展」)が開幕した。会期は6月8日まで。

 本展は、アメリカのサンディエゴ美術館と国立西洋美術館の所蔵品をあわせた88点を展示し、ルネサンスから19世紀末に至る約600年の西洋美術史をたどるものだ。

 カリフォルニア州最南端に位置するサンディエゴは、スペイン人の入植によって築かれた都市である。その歴史を背景に、サンディエゴ美術館ではスペイン美術を中心に収集を進めてきた。

 サンディエゴ美術館は1926年に開館し、スペイン・プラテレスコ様式を復興した建築が特徴的だ。所蔵品はヨーロッパ、南北アメリカ、アジアと多岐にわたり、その数は約3万2000点に及ぶ。とくにヨーロッパ古典絵画のコレクションは、1930〜40年代にパットナム姉妹ら篤志家の協力によって形成され、イタリア初期ルネサンス絵画やスペイン絵画の充実度が高いことが特徴だ。

展示風景より

 本展を監修したのは、マイケル・ブラウン博士(サンディエゴ美術館ヨーロッパ絵画担当学芸員)と川瀬佑介(国立西洋美術館主任研究員)。作品を単独で鑑賞するのではなく、両館のコレクションを掛け合わせ、関連性のあるものをペアや小グループにまとめて展示し比較することで、「より深い視点から西洋絵画の魅力を探る構成」となっていると、川瀬主任研究員は開幕に際して話している。

 展覧会は、時代ごとに「ルネサンス」「バロック」「18世紀」「19世紀」と章立てされており、全88点の作品を30以上の小セクションに分けて展示。川瀬は、「作品を並べて比較することで、それぞれの個性や共通点がより際立ちます。さらに、鑑賞の手助けとなるような解説パネルも設置し、西洋絵画の見方やその奥深さをわかりやすく伝えることを意識しました」と語る。

 14〜16世紀、イタリアとネーデルラントで生まれた革新的な美術運動がヨーロッパ各地に広がり、ルネサンスが西洋美術の礎となった。第1章「ルネサンス」では、ジョットからボス(工房)まで、イタリアとネーデルラントのルネサンス絵画の展開を紹介している。

第1章の展示風景より、左はアンドレア・デル・サルト《聖母子》(1516頃、国立西洋美術館蔵)。右はべルナルディーノ・ルイーニ《マグダラのマリアの回心》(1520頃、サンディエゴ美術館蔵)
第1章の展示風景より

 第2章「バロック」では、サンディエゴ美術館が誇るバロック絵画の充実したコレクションに、国立西洋美術館の所蔵品を加え、17世紀美術を地域別に展開。スペイン、イタリア、フランス、フランドル、オランダといった各地域の特色を比較しながら、バロック美術のダイナミズムに迫る。

 17世紀初頭のスペインでは、ボデゴンと呼ばれる静物画のジャンルが確立された。その先駆者とされるフアン・サンチェス・コターンの静物画は現存するものが世界でわずか6点のみであり、そのなかでももっとも完成度が高いとされる《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》(1602頃)が本展に出品されている。

第2章の展示風景より、フアン・サンチェス・コターン《マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物》(1602頃、サンディエゴ美術館蔵)

 コターンについて川瀬は、「彼なくしては、スペインにおける静物画の伝統は生まれなかったと言えるほどのエポックメイキングな画家であり、その影響は17世紀にとどまらず、ゴヤやピカソにまで及んでいます」と評価。今回の出品作は「構図のバランスや厳粛な静けさが際立つ最高傑作」であり、「この作品が日本で公開されること自体が一大イベントと言えるでしょう」と述べている。

 この作品は、コターンに続く世代のバン・デル・アメンや、「修道僧の画家」とも称されるフランシスコ・デ・スルバランの《神の仔羊》と並べて展示。静謐な空間構成を特徴とするコターン、装飾的で華やかなアメン、そして神聖な宗教的象徴性をもつスルバランの作品を比較することで、スペイン静物画の奥深さを浮かび上がらせる。

第2章の展示風景より、左からフランシスコ・デ・スルバラン《洞窟で祈る聖フランチェスコ》(1658頃、サンディエゴ美術館蔵)、《聖ドミニクス》(1626–27、国立西洋美術館蔵)、《聖ヒエロニムス》(1640–45頃、サンディエゴ美術館蔵)、《聖母子と聖ヨハネ》(1658、サンディエゴ美術館蔵)

 また、この章ではスルバランの画業を、サンディエゴ美術館所蔵の4点と国立西洋美術館所蔵の1点でたどる。初期の厳格なリアリズムから、晩年の理想化された柔和な表現まで、そのスタイルの変遷を一望することができる。

第2章の展示風景より、左の2点はエル・グレコ(ドメニコス・テオトコプロス)《悔悛する聖ペテロ教会》(1590-95頃、サンディエゴ美術館蔵)、《十字架のキリスト》(1610-14頃、国立西洋美術館蔵)。右はペドロ・デ・オレンテ《聖母被昇天》(1620-25頃、国立西洋美術館蔵)
第2章の展示風景より、右はバルトロメ・エステバン・ムリーリョ《悔悛するマグダラのマリア》(1660-65頃、サンディエゴ美術館蔵)
第2章の展示風景より、左からアントニオ・デ・ベリス《ゴリアテの首を持つダヴィデ》(1642-43頃、サンディエゴ美術館蔵)、グエルチーノ(ジョヴァンニ・フランチェスコ・バルビエーリ)《ゴリアテの首を持つダヴィデ》(1650頃、国立西洋美術館蔵)

 第3章「18世紀」では、イタリアとフランスを中心に発展した18世紀美術に焦点を当て、風景画、肖像画、風俗画といったジャンルごとに、地域ごとの特色を探る。18世紀末から19世紀初頭にかけて、フランスでは女性芸術家の活躍が目覚ましかった。本展で並べて紹介されたアデル・カペの《自画像》(1783頃)とマリー=ギルマン・ブノワの《婦人の肖像》(1799頃)が印象的だ。

第3章の展示風景より
第3章の展示風景より、左からマリー=ガブリエル・カペ《自画像》(1783頃、国立西洋美術館蔵)、マリー=ギユミーヌ・ブノワ《婦人の肖像》(1799頃、サンディエゴ美術館蔵)

 カペの自画像では、巻き髪や淡いブルーのリボン、ロココ特有の優美なファッションが表現されている。いっぽう、ブノワの女性像はギリシャ彫刻を思わせる白いシュミーズドレスを纏い、より簡潔で新古典主義的な表現が特徴的である。時代の移り変わりを、女性画家の視点から感じ取ることができるだろう。

 第4章「19世紀」では、19世紀における人物表現の多様性を探る。伝統的な古典絵画の影響を受けながらも、近代的な表現を模索した画家たちの作品が展示されている。この時代には、リアリズム、ロマン主義、印象派といった様々な美術運動が交錯し、個々の画家が独自の表現を追求した。伝統と革新が共存するこの時代の作品を通じて、西洋絵画がどのように発展していったのかを紐解いていく。

展示風景より、左からウィリアム=アドルフ・ブーグロー《羊飼いの少女》(1885、サンディエゴ美術館蔵)、ウィリアム=アドルフ・ブーグロー《小川のほとり》(1875、国立西洋美術館蔵〈井内コレクションより寄託〉)
第4章の展示風景より

 また、本展は同館の企画展示室だけにとどまらず、常設展示室にも及ぶ。常設展では、サンディエゴ美術館のコレクションから5点の作品が公開されており、川瀬は「これにより、普段とは異なる視点から常設コレクションを楽しむことができます。とくに、同じ画家の作品が海を越えて一堂に会することで、それぞれの作品の新たな魅力や側面が明らかになるでしょう」と話している。

常設展示室での展示風景より、右からジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル《フェイディアスの習作》(1827)、フランシスコ・デ・ゴヤ《ラ・ロカ公爵ビヤンテ・マリア・デ・ベラ・デ・アラゴン》(1795頃、いずれもサンディエゴ美術館蔵)

 たんなる作品の鑑賞にとどまらず、「どのように見ると面白いのか?」という視点から構成された本展。作品を並べて比較することで、異なる時代や地域、画家ごとの特徴が際立ち、従来とは異なる視点で西洋絵画を楽しむことができるだろう。サンディエゴ美術館と国立西洋美術館のコレクションが交差することで生まれる新たな発見を、ぜひ会場で体感してほしい。