デザインとアートを横断するフェアはなぜ少ないのか? 「Salon Art + Design」から考える
インテリア・デザインとアートのフェア「Salon Art + Design」が11月14日から4日間、ニューヨークのパーク・アーモリーで開催された。8回目の開催となる今年は、13カ国から56の出展者が集結。デザインとアートを横断する珍しいこのフェアの様子を取材した。
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総額5兆円規模のアートとデザインマーケット
2019年度のアメリカのインテリア・デザイン業界の市場規模は157億ドル(約1.7兆円)におよぶという試算がある。いっぽう、アメリカのアート・マーケットの規模は、299億ドル(3.25兆円)。いずれのマーケットも、メイン・ターゲットとなるのは富裕層だ。
「Salon Art + Design」でエクゼクティブ・ディレクターを務めるジル・ボコールは、こう語る。「素晴らしいアート作品を手にした人が、それをイケアの椅子から眺めているなんていうことはありません。同様に、20〜21世紀の貴重なデザイン家具を集めている人の家の壁には、アートがかかっているものです」。
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しかし既存のアートフェアには大きな問題があるという。アートディーラーはデザイン系の商品を展示できず、インテリア・デザイン系のディーラーは、アートフェアから締め出されており、双方大きな不満を抱えているという。「Salon Art + Design」はその問題を解消すべく、両業界のディーラーが出展できる、珍しいフェアとなっている。
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アメリカにおけるインテリア・デザインとは
富裕層が住居の内装を新調する際などに、求められるのがインテリア・デザイナーだ。顧客のテイストや意向を踏まえ、空間に合う壁紙・カーテンや照明・家具などのインテリア用オブジェクトを提案し、調達する。色味・質感・スタイルなどのバランスをとるセンスや、材質に関する知識、アーティストやディーラーとの豊富なコネクションが求められる。なかには建築の学位を持つ人や、美術に造詣の深い人もいて、インテリアの枠を超えて、顧客にアドバイスできるデザイナーもいるという。
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近年、不動産ディベロッパーが高級コンドミニアムを手がける際、有名インテリア・デザイナーに内装や家具選びを依頼し、付加価値を付けてから売り出すケースも増えており、インテリア・デザイナーの需要はさらに広がっている。
会場では、ニューヨークでテキスタイル・アーティストとして活動する山本真紀に話を聞くことができた。「Salon Art + Design」は、ハイエンド案件を手がけるインテリア・デザイナーを念頭に置いたフェアだと山本は言う。
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「家具」といっても大量生産品はなく、見るからに一点ものが多い。それぞれにアーティスト名が記載されたラベルがきちんと用意されており、デザイナーに彼らの名前を覚えてもらうのが、出展者の目的のひとつだとわかる。「アーティスト」と聞くと、ファイン・アートがまっさきに浮かんでしまうが、インテリア・デザインの領域で活動するアーティストも相当数いることがわかる。
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会場では少数派となっていたアート・ギャラリーのブースを見ると、住居向けの小ぶりな作品が並んでいた。エゴン・シーレ、フランク・ステラ、アレクサンダー・カルダー、ミケランジェロ・ピストレット、アリギエロ・ボエッティなどの作品があったが、インテリア・オブジェクトとの連続性を考慮してか、あえて控えめな作品が選ばれているように見えた。アートフェアやオークションでは、アーティストや作品に関する薀蓄がセールスツールとして使われるが、それとは異なるアートの流通の仕方があるのを垣間見た気がする。
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インテリア・デザイナーたちは、このようなフェアに来て、現在進行中のプロジェクトに合うものを調達していくのだと山本はいう。なかには、顧客と一緒に会場に来て、商品購入をしていくケースもあるそうだ。いずれの場合も、アートとデザインを同時に見ることができるのは便利だろう。
インテリア・デザインの領域については、これまでイメージが湧きにくかったが、内情を聞くにつれ、アートとデザインのマーケットの線引きが頑なに保持されていることのほうが不思議に感じられた。これは「ファイン・アートが上位でデザインはその下位に属する」とされることが多い既存のヒエラルキーの影響もあるだろうが、アートフェアの隆盛がこの区分けをさらに後押ししている可能性も考えられる。ターゲットが共通しているのに、なぜ「Salon Art + Design」のようなフェアがいまだに少ないのか。ヒエラルキーを維持する意義はどこにあるのか、考えさせられる機会となった。
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