老舗和菓子店「鍵善良房」が美術館「ZENBI」とミュージアムショップ「Zplus」をオープン
黒田辰秋や河井寬次郎ら芸術家・文化人との関わりも深い、京都・祇園の和菓子店「鍵善良房」が、美術工芸や京都の文化を紹介する美術館「ZENBI-鍵善良房-」と、ミュージアムショップ「Zplus」をオープン。開館記念展「黒田辰秋と鍵善良房ー結ばれた美への約束」が6月27日まで開催中だ。
江戸中期の享保年間に創業、京都・祇園で300年以上の歴史を誇る和菓子店「鍵善良房」。季節が細やかに表現されたデザイン性の高い菓子はもちろん、名だたる芸術家たちが手がけた店の設えでも知られている。
美術館「ZENBI」は鍵善良房本店からほどちかく、祇園町南側の路地の一角に建てられた。この路地は、十五代今西善也(現当主)の代になってから、「菓子屋が伝える文化」をテーマに、カフェサロン「ZEN CAFE」「Kagizen Gift Shop」や、若手作家の発表の場「ギャラリー 空 鍵屋」が営まれてきた場所である。路地の南西角と空 鍵屋だった場所を使って、美術館が新築された。
「歴代当主たちが紡いできた文化をきちんとアーカイブして継承していきたいという思いが募り、5年ほど前から美術館設立を計画していました」(善也)。
美術館の総合ディレクターはイムラアートギャラリーの井村優三が担当。開館記念展「黒田辰秋と鍵善良房ー結ばれた美への約束」は、鍵善良房が所蔵する黒田辰秋の作品で構成されている。
善也の大叔父で、十二代当主・今西善造は、柳宗悦らが唱えた「民藝運動」に造詣が深かった。当時は、鍵善良房の店内や陶芸家・河井寬次郎らの工房がある清水坂に、文化人・芸術家たちが集い芸術談義を繰り広げていたという。
善造は、若手作家たちの作品を購入することでその活動を支えてきたが、特に黒田の作品について、質の高いコレクションを築いた。黒田は1970年に木工芸における初の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定されたが、まだ無名だった31年に、鍵善良房本店内の大飾棚の製作を任されていたのである。ほかにも、黒田は調度品の製作や店内の改装案など、善造から様々な仕事を受けていた。
展覧会には、黒田が手がけた螺鈿の「くずきり」用器や、本店のショーウィンドウにぴったりの大きさにつくられた「赤漆宝結文飾板」などが出展され、木工、漆、螺鈿など多岐にわたる黒田の技術力の高さとともに、鍵善良房との関係性が伺える内容となっている。
美術館の建築は、「ZEN CAFE」をデザインした金澤富(IAT STUDIO / Architecs +)が手がけた。祇園の街並みに溶け込みつつも、和に偏りすぎず、親しみやすい雰囲気をイメージして、素材には、土壁や木など自然の素材を使用。格子や簾などから外光を取り入れ、読書や休憩ができる縁側スペースも設けた。
「美術館といえば白い壁のイメージですが、京都では、お寺とか古い建物で展示会することも多い。外の空気や光が流れてくるような、抜けのあるような建物にして、お客様にリラックスしてもらえるように心がけました」(善也)。
美術館の隣に築かれた「Zplus」は、「昂 -KYOTO-」の店主・永松仁美がディレクションしている。店には職人や作家に特別に誂えた、ここでしか手に入らないものが並ぶ。
「洗練された職人の技術、作家の個性を何よりも生かしながらも、美術館のコンセプトでもある『日常の生活に寄り添う美しいもの』をテーマに、手のひらにのる小さなギフトを用意しました。京都に息づく『お誂え』の文化をここから発信できれば」と永松は言う。
ショップのテーマは「手のひらにのるギフト」。鍵善良房で昔から作られている干菓子「菊寿糖」や「飴雲」を、オリジナルよりもひと回り小さくつくったお誂えのお菓子も販売。
「和菓子は色をひとつ変えただけで、ガラリと季節感が変わるもの。大量生産ではなくて、職人が一つひとつ手づくりしているからこそ、細かいオーダーに応えることができるのです」(善也)。
今後、美術館では鍵善良房にゆかりの作家や和菓子をテーマとした展覧会を予定。和菓子とともに培われた、独特の文化を堪能したい。