東横インが運営する知られざるアートスポット。「ART FACTORY 城南島」で三島喜美代の巨大作品を見る
東京の湾岸地域である城南島に、東横インが運営するアートスポットがあることをご存知だろうか? 1940年代から活動し、いまなお存在感を放つ彫刻家・三島喜美代の作品を常設するこの場所の見どころをお届けする。
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東京・城南島の倉庫街に2014年、オープンした「ART FACTORY 城南島」。総床面積3500平米を超える館内には、彫刻家・三島喜美代の常設展示や、アーティストの制作スタジオを擁し、アートの一大拠点となっているのをご存知だろうか。
「ART FACTORY 城南島」は、対岸に羽田空港を見据える城南島の倉庫街にある。この施設は、株式会社東横インの社会貢献活動の一環として、芸術・文化振興のために設置された。もとは、同社の倉庫として利用されていた建物を活用しているので、その外観は周囲の建築物と同様に倉庫さながらではあるが、入口付近に設置された三島の作品が、この場所がアートスポットであることを教えてくれる。
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「ART FACTORY 城南島」は本棟と別棟によって構成されている。本棟は4階建てで、4階が多目的ホールとアーティストの制作スタジオ、3階が浮世絵をテーマとした「Japanese Paper “Edo”Installation」の常設展示室、2階が事務所、そして1階が三島作品の常設展示「KIMIYO MISHIMA Installation」となる。別棟は加工スタジオとなっており、金属や木材といった素材を扱うアーティストの制作場所として利用される。
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同館のなかでもっとも象徴的なのが、1階の三島の常設展示「KIMIYO MISHIMA Installation」だ。
三島は1932年大阪府生まれ。高校卒業後より、独立美術協会主催の独立展に油彩を出品。具体美術協会の吉原治良に師事した画家・三島茂司との出会いと影響があり、当初の具象画から抽象、そして実験的なコラージュに制作を移行。50〜60年代は雑誌や新聞のコラージュに加え、シルクスクリーンで当時の雑誌、新聞の紙面をキャンバス上に刷る実験的な絵画を継続的に発表した。
60年代末頃から陶で新聞をつくることを開始し、71年に日本陶芸展の前衛部門にて、まるめた新聞紙を再現した陶の彫刻を初めて出品。その後、段ボール箱などを陶で制作した彫刻の展示が反響を呼び、86〜87年にかけてはニューヨークに滞在した。高齢となった現在も岐阜県土岐市にも仕事場を設け、社会が生み出す膨大な製品やゴミをモチーフに、人間社会のあり方や環境問題に対する問いかけを続けている。
東横インは懇意にしている画商からの紹介で、三島を知ったという。三島の制作にかける情熱や思いに惹かれ、また作家本人が所有している膨大な量の作品群を展示する場所としてこの広大な展示場が適していることもあり、作品を紹介展示することになった。
常設展示「KIMIYO MISHIMA Installation」の冒頭で来場者を迎えるのが《Wreck of Time 90》(1990)だ。火山灰、金属、木をFRPによって固めた約1メートル四方のブロックに陶製の新聞紙を載せた立体が16個並んでおり、静かな迫力を醸し出している。
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さらにその奥の壁面には、同様の手法でつくられた、九州南部一帯の火山灰を使用した立体が展示されている。これらは、三島のアトリエに眠っていたもので、2019年に改めて手が加えられ展示されることになった。
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同室内には、版画の技法でパッケージをプリントし、そこに手彩色を行うことで制作した、三島を代表するダンボールを模した陶製の作品も並ぶ。冒頭で紹介した同館の入口周辺にある作品も同様の手法で制作されているが、三島は堆積しつづける膨大なゴミに着目し、環境問題、また現代社会が抱える不安や恐怖をユーモアでつつみ表現した。
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さらに、想像を超えた巨大な作品も同館には展示されている。《NewsPaper08》(97-08)は、ポリエステル製の新聞紙の束によって覆われた迷路で、来館者は実際にそのなかを探索することができる。作品に使用された新聞紙は、1970年から2000年ごろまでに三島が旅行した先から持ち帰ってきたものだ。この迷路は、氾濫する情報に埋没する恐怖を表現するとともに、作家自身が生きた時間と場所も記録している。
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迷路を抜けた先には、かつて倉庫だった広大な空間が広がり、床一面には1万1000個を敷き詰めたインスタレーション《20世紀の記憶》(1984~2013)が常設展示されている。これらレンガには、三島が図書館のマイクロフィルムから選び出した1900年から2000年までの100年間の記事が転写されており、第二次世界大戦中のものからバブル経済時のものまで、20世紀の歴史上の出来事が各々に刻まれている。レンガは陶の作品を焼き上げる際に下に敷かれていた耐火レンガを再利用しており、三島の制作の歴史から生まれたレンガに歴史をとらえた新聞紙面を転写することで、三島の歴史と20世紀の歴史が重なり合う。
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ほかにも、コンクリートと鉄筋のなかに陶の新聞が檻のように閉じ込められている《Information was Shut B》《Information was Shut C》(ともに1989)や、「アートの島」として知られる豊島にかつて不法投棄されていた廃棄物のスラグを使ってやぐらの屋根を制作した《Work14-S》(2014)など、この広大な空間に三島作品が一堂に会する。
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なお、この吹き抜けの空間の2階部分は、開廊状にパブロ・ピカソの版画作品が並び、階段を登ることで眼下に三島作品を見ながら併せて楽しむことができる。
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一連の三島作品のほかに、「ART FACTORY 城南島」がアーティストの制作スペースとしての機能を有している点にも注目したい。本棟4階には15の、別棟には6つの制作スタジオが設置され、アーティストが通いながら制作に励んでいる。さらに木工や金属加工ができる加工スタジオも自由に利用でき、大掛かりな加工をすることも可能だ。
制作スタジオは最短3ヶ月、最長3年間アーティストに貸与され、空きが出ればすぐ埋まるほど人気の状態だという。なお、本来であれば各スタジオを来場者が見学することも可能だが、現在は新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、見学を中止している。
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また、本棟3階では、葛飾北斎や歌川広重、喜多川歌麿といった江戸時代を代表する絵師が描いた浮世絵を、東京藝術大学の高精細複製技術「うつし」によって和紙に拡大印刷して展示する常設展「Japanese Paper "Edo" Installation」を展開。実際の江戸の風景を楽しむかのように、名作浮世絵を細部まで見ることができる。また、この展示ではスマートフォンでQRコードを読み込むことで、音声ガイドも楽しめる。
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「ART FACTORY 城南島」では今後も、アーティストの制作の場所を維持しつつ、三島作品を中心に常設展を続けていくという。開館以来、三島の旺盛な制作意欲から作品が追加され続けているという同館。「TERRADA ART COMPLEX」や「WHAT」を中心にアートの集積地となっている天王洲から東京モノレールを使えば訪れることもできるので、近くに立ち寄った際には足を伸ばしてみてはいかがだろうか。
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