2021.4.24

原美術館ARCが開館。原美術館から引き継がれた作品と想い

今年1月に活動を終えた品川の原美術館が、群馬県渋川市にある別館のハラ ミュージアム アークと統合。4月24日に「原美術館ARC」として開館を迎えた。新たな常設作品も加わったこの美術館の見どころとは?

展示風景より、森村泰昌《輪舞(双子)》(1994/2021)
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 今年1月、惜しまれつつ東京での活動を終了した品川の原美術館が、新たに「原美術館ARC」として4月24日に始動した。

 この美術館は、磯崎新の設計によって1988年に開館した群馬県渋川市の別館ハラ ミュージアム アークと原美術館が統合したもの。建築は旧ハラ ミュージアム アークを利用しつつ、統合に向けてインフラのリニューアルなどが行われた。

原美術館ARC

 同館のコアとなるのは、現代美術からなる「原美術館コレクション」と、東洋古美術からなる「原六郎コレクション」の2つのコレクションだ。

 言わずと知れた原美術館コレクションは、公益財団法人アルカンシエール美術財団理事長の原俊夫が原美術館設立時から収集している現代美術のコレクションで、その数は約1000点にのぼる。いっぽうの原六郎コレクションは、明治時代の実業家である原六郎(1842~1933)が収集した古美術コレクションのうち、近世日本絵画を中心とする約120点で構成されている。

 この2つのコレクションを同時に見ることができるのが原美術館ARCだ。

展示風景より、ジム・ランビー《トレイン イン ヴェイン》(2008)

常設作品の新しい顔

 同館館長の青野和子は、新たな出発に際してこう語る。「原美術館の閉館にあたり、両館の活動を統合するかたちでリスタートすることが決まったのが2年ほど前のこと。品川での最後がコロナ禍中であったことは残念だが、当館は常設作品も新しい顔を見せてくれたことには喜びを感じている」。

 原美術館の大きな特徴はその常設作品にあった。館内には奈良美智宮島達男森村泰昌など、名だたる作家たちが原美術館のために制作した作品が設置されていた。原美術館閉館が発表された際にはその行方にも注目が集まったが、原美術館ARCで新たな居場所を見つけた。

 ギャラリーBの展示風景より。中央にある箱が奈良美智《My Drawing Room》(2004.8-)

 奈良自身の存在感を感じられるような小さな部屋《My Drawing Room》(2004.8-)は、館内のギャラリーB内に展示。原美術館から移設した掃き出し窓や小窓の枠、床板が使用されており、原美術館時代を思い出させてくれる。

 原美術館では原家の元男性用トイレに展示されていた宮島達男の《時の連鎖》(1989/1994)は、《My drawing room》と同じくギャラリーBで見ることができる。原美術館では弧を描くようにデジタルカウンターが配置されていた同作。可能なかぎりそのままの状態で移設されており、見事に展示室内に再現された。

 来館者用のトイレだった場所に展示されていた森村泰昌の《輪舞》(1994)は、《輪舞(双子)》(1994/2021)として、原美術館ARCのトイレを改装した特別なスペースでの展示となった。同作ではこれまで男の子の人形1体が作品に使われていたが、今回の移設を機にアップデート。28年前にこの作品が制作された際、予備としてつくられながら、ハラ ミュージアム アークの収蔵庫に長年保管されていた女の子の人形が作品に加えられた。作品は鑑賞の際、原美術館の環境音とともに録音された音楽が流れ、ひとつのショーを見るような驚きの仕掛けが施されている。ぜひ現地で体験してほしい。

展示風景より、森村泰昌《輪舞(双子)》(1994/2021)ン

 新たに加わった常設作品もある。鈴木康広による新作インスタレーション《日本列島のベンチ》(2014/2021)だ。本作はその名のとおり、日本列島のかたちをしたベンチ。渋川市が日本の「ヘソ」であることから、美術館の中心に設置された。ベンチの方位は実際の日本列島と同じ向きに設定されており、床面にはARCにあった樹木の年輪が描かれている。美術館の真ん中から、日本全体へと思いを馳せるインスタレーションだ。

展示風景より、鈴木康広《日本列島のベンチ》(2014/2021)

「虹をかける」展覧会

 原美術館ARCとして初となる展覧会は「虹をかける:原美術館コレクション」展。「虹」は、同館を運営する財団の名称「アルカンシエール(Arc-en Ciel)」を意味する。

 同館学芸部長・坪内雅美はこのテーマについて、「人と人の架け橋になりたいという想いから財団は創設された。本展は原美術館の文化をアークへとつなぐ、という意味もある」と語る。「つなぐ、という言葉には美術館自らがアクション起こし、ここで活動していくんだという意気込みも込めた。鑑賞者の方々にも、自ら作品に近づき、見てもらうことで、作品と交流してほしい」。

展示風景より、ジム・ランビー《トレイン イン ヴェイン》(2008)

 展示は2期構成で、第1期は原俊夫が財団設立当初に収蔵した作品や、原が2018年にキュレーションした展覧会「現代美術に見せられて」に出品されたものが中心。コロナがなければ原美術館の最後の展覧会として展示されるはずだった作品が並ぶ。出品作品は、現代美術から工藤哲巳、篠田桃紅、篠原有司男、ジャスパー・ジョーンズ、杉本博司、須田悦弘、ジャクソン・ポロック、クリスト、ロバート・ラウシェンバーグ、ジム・ランビー、李禹煥、マーク・ロスコなどが、古美術からは狩野探幽《龍虎図》や円山応挙《淀川両岸図巻》などが展示された。

展示風景より、手前は李禹煥《線より》(1979)
展示風景より、左からマーク・ロスコ《赤に赤》(1969)、村上友晴《無題》(1990-1991)、ぶりぶり蒔絵徳利提(19世紀)、セザール《バレンタイン》(1956)、狩野探幽《龍虎図》(1671)、アルマン《なまゴミ》(1969)、ナム・ジュン・パイク《キャンドルテレビ》(1980)
展示風景より、左から狩野探幽《龍虎図》(1671)、ナム・ジュン・パイク《キャンドルテレビ》(1980)、アルマン《なまゴミ》(1969)、杉本博司「海景」シリーズ

 続く第2期では、原美術館でこれまで展覧会を行ってきた作家をラインナップ。現代美術からは荒木経惟や加藤泉、ウィリアム・ケントリッジ、崔在銀(チェ・ジェウン)、蜷川実花、クリスチャン・ボルタンスキー、柳幸典、米田知子、横尾忠則、ピピロッティ・リスト、ジャン=ピエール レイノーなどが、古美術では狩野派《雲龍図》、狩野派《層嶺瀑布図》などの展示が予定されている。

 なお原美術館ARCには屋外彫刻を含め、まだ展示が完了していない常設作品もある。こうした作品は今後時間をかけて設置が検討されるという。新たな名前ともに再出発した原美術館ARCが今後どのように成長していくのか、楽しみに見守りたい。

觀海庵に続く廊下から見える渋川の景色。オラファー・エリアソンの常設作品《Sunspace for Shibukawa》(2009)が設置されている