14の代表作を実際のスケールで再現。「バンクシーって誰?展」が寺田倉庫G1ビルでスタート
神出鬼没の覆面アーティスト、バンクシー。その代表作を実際のスケールで再現した「バンクシーって誰?展」が、寺田倉庫G1ビルで開幕した。本展の見どころをレポートで紹介する。
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ストリートを中心に表現を続け、神出鬼没に世界各地で足跡を残してきた覆面アーティスト、バンクシー。その活動の軌跡を辿る「バンクシーって誰?展」が、寺田倉庫G1ビルで開幕した。
本展は、世界各都市を巡回し人気を博した「ジ・アート・オブ・バンクシー展」の作品群を日本オリジナルの切り口で再構成するもの。バンクシー公認の展覧会ではないが、主催者は本展の公式サイトに「バンクシーと、すべての虐げられた市民に捧ぐもの」と記している。
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会場は、バンクシーの活動の主戦場である世界各地の“ストリート”で発表された14の代表作を再現した映画のセットのような没入空間によって構成。加えて、個人蔵のオリジナル絵画やプリント、ポスター、写真など約53点の作品も展示されている。
タイトルに冠した「バンクシーって誰?」という質問に対し、本展の主催者は次のように紹介している。
イギリスのブリストルで少年時代を送ったと考えられている彼は、1990年代よりこの街を舞台にストリート・アートを描き始めた。2005年、メトロポリタン美術館や大英博物館などの有名美術館に、許可なく自作を展示し始めた頃より広く知られるようになり、近年は遊園地のプロデュースや映画の監督なども手がけている。移民や人権問題、消費社会への警鐘など、政治的・社会的テーマを積極的にとりあげることでも知られるバンクシーは、SNSを戦略的に使った活動でますます注目されているグラフィティ・アート界のカリスマなのだ。(展覧会図録より一部抜粋)
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展覧会は、バンクシーが昨年12月にイギリス・ブリストルで発表した《Aachoo!! (ハクション)》を再現した作品から始まる。急な坂道の家に現れた本作では、スカーフをかぶったおばあさんが大きなくしゃみをし、その口から入れ歯も飛び出している様子が描かれている。ユーモアにあふれた作品に見えるが、コロナ禍でマスクをつけずに飛沫やウイルスを拡散することへの警鐘とも考えられている。
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本作の隣は、バンクシーが14年に同じくブリストルで発表した《Girl with a Pierced Eardrum(鼓膜の破れた少女)》を再現した展示。フェルメールの名作《真珠の耳飾りの少女》をモチーフに、その耳飾りを黄色い警報器で代用した作品だったが、少女の顔に医療用マスクが描き加えられていることが昨年発見され、それを加筆したのはバンクシーか否かはいまだ不明だ。本展では、本来の作品の写真と新しいバージョンを再現したものが並んで紹介されている。
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08年にバンクシーが作品を描き、現在は作品がすでに消されてしまった「バンクシー・トンネル」とも呼ばれる《Whitewashing Lascaux(The Cans Festival)》を再現したトンネルを抜けると、フランスの文豪ヴィクトル・ユーゴー原作のミュージカル『レ・ミゼラブル』のポスターに基づいたパロディ壁画が再現。16年にロンドンのフランス大使館前の建物に出現したこの作品は、フランスの警察がカレーの難民キャンプで催涙ガスを使ったことへの抗議としてとらえられている。
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この先に進むと、道路に設置されている消火栓をハンマーでたたき割ろうとしている少年のシルエットが現れる。これは、バンクシーが13年にニューヨークの町中で行ったプロジェクト「Better Out Than In」の20日目に描いた作品の再現だ。
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このプロジェクトは、バンクシーがニューヨーク滞在中、毎日ひとつの作品を街角に描き、その写真を自身のInstagramに投稿するもの。その全貌は《Hammer Boy》の反対側の壁面で紹介されており、実際のスマホ画面で確認することができる。
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06年のアメリカでの個展で発表され、本物のインド象を会場で展示した《Barely Legal》の再現展示の先では、バンクシーが17年にパレスチナ自治区のベツレヘム市内にオープンした「The Walled Off Hotel(壁で分断されたホテル)」の一部がピックアップして再現されている。
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イスラエル政府が築いた高さ8メートルにおよぶ分離壁の目の前に建たれたこのホテルは、「世界一眺めの悪いホテル」とも呼ばれている。世間の目をすこしでもパレスチナ問題に向けさせ、その状況を実感させることが目的だ。
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前述のように、バンクシーは移民や人権問題など政治的・社会的テーマも積極的にとりあげている。
次の空間では、バンクシーが05年にパレスチナで発表した、火炎瓶の代わりに花束を投げる抗議者風の人物を描いた巨大な壁画《Flower Thrower》をはじめ、防弾チョッキを着て胸がロック・オンされている鳩の壁画《Bullet-Proofed Dove》、イスラエルの軍事行動によって廃墟と化したパレスチナ・ガザ地区にある一面の壁に描かれた子猫の壁画《Giant Kitten》、15年のシリア難民危機のとき、シリア難民の息子でアップル創業者のスティーブ・ジョブズを描いた《The Son of a Migrant from Syria》が再現されている。
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最後の空間では、18年のサザビーズのオークションで切り刻まれた少女と赤い風船の作品の原点である、02年にロンドンのウォータールー橋のたもとの階段に初めて描かれた《Girl With Balloon》が再現。後にシリアの子供を救う「#WithSyria」キャンペーンのアイコンにもなったこの作品は現在残されていないが、当時は誰かの手によって「THERE IS ALWAYS HOPE(いつだって希望はある)」という言葉が書き加えられ、さらに人々の心に焼き付けられた。本展では、このディテールも忠実に復元されている。
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こうした再現展示が大きな存在感を放つ本展だが、いくつかのオリジナル作品にも注目してほしい。
インド象を再現した空間で展示されている《Congestion Charge》は、本展に出品された唯一のバンクシーの油彩画。無名の画家が描いた田園風景にバンクシーが「C」の標識を描き加えた本作は、既存の作品に描き足すことで本来の意味を変える「デトーナメント(転用)」手法を使ったシリーズのひとつ。バンクシーは後に同じ手法を繰り返し、気候変動や難民問題をテーマにした様々な作品を発表していった。
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また、花束を投げる男子の姿を描いた「Love Is In The Air」シリーズや「Girl With Balloon」シリーズの異なるバリエーションや、戦争反対をテーマにした《Bomb Love》、消費社会や物質主義を皮肉る数々の作品も会場に点在しており、これらの作品にじっくり向き合ってほしい。
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