横尾忠則の「色」に注目。横尾忠則現代美術館が「横尾さんのパレット」に
今年開館10周年の横尾忠則現代美術館で、「開館10周年記念展 横尾さんのパレット」が始まった。横尾忠則作品の特徴である鮮やかな色彩に着目し、約40年の画家活動を振り返る展覧会だ。
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色鮮やかな作品が特徴の横尾忠則作品。その色彩に着目した展覧会「横尾さんのパレット」が、神戸の横尾忠則現代美術館で開幕した。担当学芸員は平林恵。会期は12月25日まで。
本展は、「ピンクガール」「Y字路」「A.W. Mandala」「寒山拾得」など横尾歴代の代表的なシリーズを含む作品と資料あわせて150点以上を、テーマや様式ではなく「色」で分類して紹介するもの。展示室全体をパレットに見立てるという、ユニークな切り口だ。
横尾は本展開催に際し、「私はもともと色音痴で、色のことはよく判っておりません。従って、いつも使用する色は原色中心で、中間色を使用することが大変苦手です」としつつ、「何を描いているのかではなく、どんな色を使っているのかを念頭に置いて観て下さい」とメッセージを寄せている。
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会場は2階(「赤」「青」「黄」「緑」)と3階(「黒・色彩」)の5色で構成。展示室の壁面がそれぞれの色で全面的に覆われながらゆるやかにつながるという、同館初の大胆な試みだ。
展示室でまず目に入るのは鮮烈な赤。平林は「本展開催にあたって作品を色ごとに分類するとき、赤の作品が多く、壁が足りないくらいだった」と振り返る。横尾忠則は1996年、少年時代に見た空襲で染まった赤い空に端を発する、赤い絵画の連作をスタートさせた。このシリーズは、後に「赤の時代」と言われるほどに浸透し、「生と死」を描き続ける横尾のイメージと一致するものだ。横尾の赤は闇と融合した重い色彩。生命のエネルギーを感じさせると同時に、不穏さも同居している。
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空や水を連想させる「青」は、赤と並んで横尾作品をイメージさせる色だが、実際に調査したところ、横尾が青によって空や海を描くことは少なかったという。宇宙や海など、通常は青で描かれるはずのモチーフも、横尾作品では青以外の色で表現されていることが多い。青い空も、現実的な空ではなく、この世ではない浮遊感を感じさせるものだ。
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青の隣は、横尾作品のイメージにはあまりない「黄」。闇とは対照的な色だ。このコロナ禍で外出を控えざるを得ない状況だった横尾はアトリエに籠り、「寒山拾得」シリーズを手がけた。そこには黄色や金色などを見ることができる。平林は「コロナ禍や親しい人々の死など、死の存在がより近くなっているなか、死の向こうに光を見ているのではないか」と分析する。
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黄から続く「緑」は、横尾が描く森における生命力や謎めいた深遠さを想起させる。横尾は故郷である兵庫県西脇市や、冒険小説を題材とする作品に緑を多用しており、横尾のアトリエ(木々に囲まれた黄色の建物)を舞台にした小説『原郷の森』とも接続する色だ。
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カラフルな会場に続くのは、黒の世界だ。
1996年の「赤の時代」に続く横尾の転機となった、2000年の「Y字路」シリーズ。これは、夜の闇に浮かぶY字路を描いたものだが、そこには必然的に「黒」が多用されてきた。とくに2010年の「黒いY字路」シリーズは、Y字路シリーズの描写としてはひとつの到達点とされている。本展ではあえて照明を当てずに黒い作品を黒い壁面に展示することで、黒という色をより際立たせている。
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こうした黒のY字路を抜けると、カラフルなY字路をはじめとする作品群が現れる。横尾は「暗く人通りのない夜のY字路」という自ら定めたY字路のルールを破り、キャンバスは色彩豊かなパレットと化している。このセクションでは、横尾の高校生時代の作品である《飾磨港風景》(1954-55)や、2021年に描かれた新作《二刀流再び》など、色彩あふれる作品にも注目だ。
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なお、会場最後の展示室には、横尾が実際に制作に用いたパレットも展示されている。四角いペーパーパレットは油絵具用で、紙皿はアクリル絵具用。横尾はこれらを捨てるのではなくアトリエに積み重ねている。平林は、「横尾の無意識が積み重なったパレットは、たんなる資料以上に意味を持つものではないか」と語る。額装され、絵画のように展示されたパレットに目を凝らしてほしい。
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