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2022.11.19

美術館のコレクションをいかに解釈するのか? 練馬区立美術館と平子雄一がコラボレーション

練馬区立美術館で「平子雄一×練馬区立美術館コレクション[遺産、変形、再生]」展が始まった。会期は2023年2月12日まで。マーケットでも注目を集める気鋭の画家が、美術館収蔵品から選んだ10点の絵画作品と、それらにインスパイアされた新作が並ぶ展示の様子をレポートでお届けする。

文・撮影=中島良平

展示風景より、平子雄一《inheritance, metamorphosis, rebirth》(2022)
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 「この度、練馬区立美術館の収蔵作品の中から10点の作品を選び、彼らが描いた自然、植物の意味や意図を読み解き、自らの作品に取り込み(想像以上に葛藤がありましたが。。。)再構成し4枚組の作品を描きました」

 植物や自然と人間の共存について、またその関係性の中に浮上する曖昧さや疑問をテーマに制作を行う平子雄一。冒頭のコメントは、「平子雄一×練馬区立美術館コレクション[遺産、変形、再生]」展入口の掲出文からの抜粋だ。収蔵作品10点という遺産(inheritance)を読み解き、再構成し(変形=metamorphosis)、描くこと(再生=rebirth)。平子が収蔵作品から選んだ10点と新作《inheritance, metamorphosis, rebirth》があわせて展示されている。

 コレクションの展示には、例えば野見山暁治の《落日》の脇に「野見山タッチ 理解し難いフィニッシュ だけど気になる(だんだん好きになる)」「初めてピカソを見た時に通ずる感覚」といったコメントが手書きされるなど、平子がどのような視点で絵画作品を見ているのかが伝わってきて興味深い。

展示風景より
展示風景より
展示風景より、左から新道繁《松》(1960)、吉浦摩耶《風景》(1950)、野見山暁治《落日》(1950)

 上の画像で平子が「都市と田舎のはざま」と指摘しているように、いまから70〜80年前の練馬を含む武蔵野と呼ばれる地域は、現在のようなベッドタウンとして開発されておらず、畑や雑木林も多い「都市と田舎のはざま」と呼びたくなる景観があったのだろう。観葉植物や街路樹、公園に植えられた植物など、人の手によってコントロールされた植物を「自然」と定義することへの違和感をきっかけに、現代社会における自然と人間との境界線を探求すべく作品制作を続ける平子は、その考察を深めるポイントを10点の作品に見出したに違いない。メモ書きのような壁面の手書きの文字からそのことが伝わってくる。

展示風景より、左から寺田政明《静物》(1942)、靉光《花と蝶》(1941-42)
展示風景より、左から小林猶治郎《鶏頭》(1932)、佐藤多持《華(水芭蕉)》(1954)
展示風景より、中尾彰《庭》(1937)

 冒頭に掲載した4枚組の平子の新作に戻る。左端の1枚は、当時の風景。当時の作家たちが見た自然や植物の感覚を意識し、当時のありふれた景色を再現しようと描いた。その右隣が、参考にした作品の色使いや技法などを織り交ぜ、絵画の系譜を意識して描いた室内空間だ。

展示風景より、平子雄一《inheritance, metamorphosis, rebirth》(2022)の左半分

 そして右側の2枚。絵筆を手にする頭が木の人物は、今回のプロジェクトに挑戦する自分を意識した、自画像に近いポートレイトだ。そして右端の絵は、左端の当時の風景を反転させたような景色と作家は表現する。「現代の人(自分含め)が捉える自然 過去の自然と現代の自然 どちらが本物か」。

展示風景より、平子雄一《inheritance, metamorphosis, rebirth》(2022)の右半分

 まさにタイトル通り、「遺産」を「変形」し、「再生」する軌跡がこの4枚に描かれている。10点の作品と平子の新作とを行き来しながら、風景について、自然について、あるいは絵画史について思いを馳せたくなる。思考力が刺激される魅力的な小企画展だ。

展示風景より
ロビー展示風景より、平子雄一《inheritance, metamorphosis, rebirthへの習作》(2022)