JR東日本の「JAPAN ART BRIDGE」が本格始動。永山祐子の空間設計や杉本博司、脇田玲の展示にも注目
東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)が、株式会社INERTIA、株式会社ルミネアソシエーツ、株式会社JR東日本クロスステーションとともに立ち上げた新たなアートプロジェクト「JAPAN ART BRIDGE」。同プロジェクトが7月27日よりマーチエキュート神田万世橋で本格始動した。総合ディレクターはアートディレクター・吉井仁実、空間設計は建築家・永山祐子が担当している。
東日本旅客鉄道株式会社が、株式会社INERTIA、株式会社ルミネアソシエーツ、株式会社JR東日本クロスステーションとともに立ち上げた新たなアートプロジェクト「JAPAN ART BRIDGE」。このプロジェクトが7月27日よりマーチエキュート神田万世橋で本格始動した。前回のレポートはこちら。
同プロジェクトは「暮らしに馴染むアート体験」をテーマに、「JR東日本のアセットを活用したアート体験の提供」「リアル拠点でのアート作品の展示およびグッズ等の販売」「オンラインショップでのアート作品等の販売 」といった事業を推進するもの。総合ディレクターは吉井仁実(INERTIA代表取締役、アートディレクター)が、神田万世橋内「Art Column」の空間設計は建築家・永山祐子が担当している。
「JAPAN ART BRIDGE」の始動に伴い拡張された展示ゾーンでは、現代美術家の杉本博司の作品が展示されているほか、脇田玲による「GOVERNING EQUATIONS」展と「PROPOSAL(JR VERSION)」展や、書道家・華雪による「そこにあるもの」展、3331企画の栗原良彰「空、滝の下、松の上、そして、地上で」展、渡辺育キュレーションによる「the flow of the river never ceases」展も実施されている。作品横にあるQRコードから、作品販売のためのオンラインショップにアクセスすることも可能だ。
綿密なリサーチにもとづいて、漢字一文字の作品を生み出す華雪による作品展示は、「書をひとつ、生活のなかに置く」風景を想起させる空間構成だ。中央に展示される「回」の書は、「めぐること」「旅をすること」を表した象形文字でもあり、かつて駅であった場所を行き交う人々に思いを巡らせたものでもある。8月12日には公開制作、13日には「人」という文字を書くワークショップも実施予定だ。
脇田玲は同プロジェクトにおいてふたつのインスタレーションを展開している。「GOVERNING EQUATIONS」展では、「人間である以上、逃れることができない力」をテーマに、3つの映像作品を展示。とくに、宇宙飛行士のニール・アームストロングと、原子爆弾を開発した学者のロバート・オッペンハイマーのインタビュー映像を向かい合わせに再生し、科学技術の歓喜と懺悔の両側面に焦点を当てる《Armstrong | Oppenheimer》には注目したい。
いっぽうの「PROPOSAL(JR VERSION)」展では、画像生成AI・Midjourneyによって制作された「未来の移動における理想の姿」を映すモニターと透明な投票箱が設置されている。「未来の電車のデザイン」や「痴漢の発生を抑止する画期的な車内デザイン」といったAIによるモビリティデザインを、人々はどのように受け取るのか。リアルタイムで可視化する試みとなっている。
同プロジェクトの本格始動に際し、JR東日本のマーケティング本部でくらしづくりを担う村上悠は今後の展開について次のように語った。「会場内の展示空間は『暮らしに馴染むアート体験』をテーマに、作品を生活のなかに配置するような構成を意識している。9月以降には永山さんによる展示空間の什器も増え、さらに展示を拡張していく予定だ。会場内のBRIDGE Lab. も、自由なスペースとして様々なイベントに活用できたらと考えている」。
ほかにもJR東日本は、東京藝術大学との協業や、山手線を美術館にする「Yamanote Line Museum」、アートと音楽の祭典「HAND!in YAMANOTE LINE」を開催するなど、近年アート事業に注力する姿勢を見せている。日本のモビリティを担うJR東日本が、自社の強みを活かし、どのようにアートと共創していくのか。今後の動きにも注目したい。