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2023.9.16

ローマはいかに芸術都市へと発展したのか。東京都美術館「永遠の都ローマ展」で見るその歴史

ローマのカピトリーノ美術館の所蔵品を中心に、ローマ建国から近代までその歴史と芸術を紹介する展覧会「永遠の都ローマ展」が東京都美術館でスタートした。同館と日本の関係も紹介された本展の見どころをレポートする。

文・撮影=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、《カピトリーノのヴィーナス》(2世紀) ※東京会場限定展示
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 世界的にもっとも古い美術館のひとつ、ローマのカピトリーノ美術館。同館の所蔵品を中心に、ローマの歴史と芸術を紹介する展覧会「永遠の都ローマ展」が東京都美術館で始まった。

 カピトリーノ美術館のはじまりは、1471年に教皇シクストゥス4世がローマ市民に4点の古代彫刻を寄贈したことに遡る。1734年に一般公開が始まり、18世紀半ばには絵画館が設立され、さらにはローマ全域から発掘された古代遺物の収集が進み、充実したコレクションが築かれた。

 本展は、ローマ建国から古代の栄光、教皇たちの時代から近代まで、約70点の彫刻、絵画、版画などを通じてたどるもの。年代順で構成された5章のほか、展示の最後では日本と同館の関係を紹介する特集展示コーナーも設けられている。本稿では、この特集展示「カピトリーノ美術館と日本」から紹介していきたい。

展示風景より
展示風景より

 2023年は、日本の明治政府が派遣した「岩倉使節団」がカピトリーノ美術館を訪ねて150年周年にあたる節目の年。日本と同館が建てられたローマのカピトリーノ丘との最初の出会いは、さらに16世紀末に天正遣欧少年使節の一行がローマにたどり着いたことに遡る。

 この使節団は、70日間におよぶローマでの滞在において、教皇グレゴリウス13世に謁見し、ローマ市政府からは名誉市民権も与られた。また、1615年にローマに到着した慶長遣欧使節団も教皇パウルス5世に謁見、同じくローマ市政府による名誉市民権が授与された。

 1873年、岩倉使節団はカピトリーノ美術館を訪問。欧米の美術館・博物館を視察した彼らの経験は、明治政府の博物館政策や美術教育にも影響を与えることになったとされている。本展の特集展示コーナーでは、彼らが現地で入手したと思われる絵はがきなどに基づいて制作された視察報告書『米欧回覧実記』の挿絵などが展示。また、「アリアス」の名で親しまれる石膏像の原作、カピトリーノ美術館所蔵で初めて来日した《ディオニュソスの頭部》(2世紀半ば)と、1870年代にイタリアより教材として日本に持ち込まれた「アリアス」の石膏像を模写した作品が並べられており、時空を越えたカピトリーノと日本のつながりを象徴している。

特集展示「カピトリーノ美術館と日本」の展示風景より、左は『米欧回覧実記』(1878頃)の挿絵。右は伝歌川豊春《阿蘭陀フランスカノ伽藍之図》(1804-18頃)
特集展示「カピトリーノ美術館と日本」の展示風景より、左から《ディオニュソスの頭部》(2世紀半ば)、小栗令裕《欧州婦人アリアンヌ半身》(1879)

 この展示意図について、本展の監修者のひとり・加藤磨珠枝(美術史家、立教大学文学部教授)は開幕にあたり次のように述べている。「たんにローマの美術を外から見るだけでなく、長い歴史にわたる日本とイタリアの文化交流にも思いを馳せていただきたい。また、これをきっかけに皆さんが未来に向けて、イタリアと日本のより豊かな交流を築くきっかけになったらと思う」。

 また、監修者のもうひとりでローマ市文化財監督官であるクラウディオ・パリージ=プレシッチェは、「ローマとその姉妹都市である東京の友好関係を象徴するのにふさわしい作品」として、本展の開幕前から注目を集めた、カピトリーノ美術館所蔵の門外不出の古代ローマ彫刻の傑作《カピトリーノのヴィーナス》(2世紀、東京展のみ展示)を挙げている。

展示風景より、《カピトリーノのヴィーナス》(2世紀) ※東京会場限定展示

 第2章「古代ローマ帝国の栄光」で展示されたこの作品は、古代ギリシャの偉大な彫刻家プラクシテレスの女神像(前4世紀)に基づく2世紀の作品。ミロのヴィーナス(ルーヴル美術館)、メディチのヴィーナス(ウフィッツイ美術館)に並ぶ古代ヴィーナス像の傑作としても知られている。

 同作は、1752年に教皇ベネディクトゥス14世によってカピトリーノ美術館に寄贈され、1779年にナポレオン指揮下のフランス軍によって接収。ナポレオン敗北後、1816年にローマへ返還され、1834年以降はカピトリーノ美術館の「ヴィーナスの間」と呼ばれる八角形の展示室に置かれている。本展では、この作品がカピトリーノ美術館の展示室の形にした特別空間で展示されており、床も同館が位置する、ミケランジェロによって設計されたカンピドリオ広場の模様で飾られている。

第2章「古代ローマ帝国の栄光」の展示風景より

 第2章では、歴代ローマ皇帝の肖像をはじめ、ローマ帝国ゆかりの女性たちの肖像など、数々の頭部彫刻や胸像が並ぶ。また、帝国の栄華を象徴する《コンスタンティヌス帝の巨像》の頭部や、地球を思わせる球体を持つ手部を原寸大複製した迫力のある巨大作品も同章で見ることができる。

第2章「古代ローマ帝国の栄光」の展示風景より、右は《コンスタンティヌス帝の巨像の頭部(複製)》(1930/原作は330-37)
第2章「古代ローマ帝国の栄光」の展示風景より、《コンスタンティヌス帝の巨像の手部(複製)》(1996/原作は330-37)
第2章「古代ローマ帝国の栄光」の展示風景より、左は《コンスタンティヌス帝の巨像の左足(複製)》(2021/原作は312頃)

 その他のハイライト作品としては、ローマのシンボルとも言える作品、双子の兄弟ロムルスとレムスを育てる牝狼の物語に基づいた《カピトリーノの牝狼(複製)》や、ミケランジェロの都市計画を示す版画、同館の絵画館コレクションから出品された16世紀から18世紀の画家たちの作品、ヨーロッパ各地の芸術家たちがその芸術的霊感源であるローマを再解釈した作品など、多様な作品が展示されている。

第1章「ローマ建国神話の創造」の展示風景より、《カピトリーノの牝狼(複製)》(20世紀/原作は前5世紀)
第1章「ローマ建国神話の創造」の展示風景より
第3章「美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想」の展示風景より
第4章「絵画館コレクション」の展示風景より、左からドメニコ・ティントレット《鞭打ち》(17世紀)、ジョヴァンニ・ランフランコ《エルミニアと牧人たち》(1633-37)

 本展の担当学芸員・小林明子(東京都美術館学芸員)は、「カピトリーノ美術館は、ローマが芸術都市として発展している原点に位置づけられる重要な美術館だ」と話す。本展では、その成り立ちにいかに変化していったのか、また、古代美術だけでなく、中世以降18世紀に至るまでの様々な作品を通じ、イタリア美術やローマという都市がいかに受容されていったのかも楽しめることを強調している。

 古代美術や遺跡の宝庫であり、ヨーロッパの歴史、文化の源泉として、日本を含む世界中の芸術家たちに重要な霊感を与えた都市ローマ。カピトリーノ美術館所蔵の数々の名作を通じ、ローマの歴史や美術について思索を巡らせたい。

展示風景より
展示風景より
展示風景より
展示風景より