「ミロ展―日本を夢みて」に見るキュレーションのあり方。担当キュレーター・副田一穂が語る

美術館の学芸員(キュレーター)が、自身の手がけた展覧会について語る「Curator's Voice」。第3回は、Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「ミロ展―日本を夢みて」を企画した副田一穂(愛知県美術館 主任学芸員)が、同展とキュレーションのあり方について語る。

文=副田一穂

展示風景より
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 東京会場が無事開幕してホッと一息つく間もなく今度は愛知会場の準備に追われながらも、毎日欠かさずSNSで展覧会の反応をチェックする。国内ではずいぶん久しぶりとなる今回の大規模なミロ展について、いま(3月20日現在)のところもっともバズっているツイートは、《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》の背景に貼り付けられた浮世絵を緻密な模写だと誤解した鑑賞者が、それだけ精確な模写ができるにもかかわらず友人の肖像画をわざわざ太い輪郭線とフォーヴィスム風の色彩で描いたミロの意図を、「マイクパフォーマンス」的だと肯定的に評価したものだった(この誤解に対してはすでに多くの指摘が寄せられ、ツイート主も誤りを認めている)。この評価のロジックはどこかで見たことがある。ピカソは一見よくわからない絵を描いているが、本当は「絵がうまい」(=再現的に描ける)という、アレだ。わたしたちはよくわからない絵の向こうに、わかる絵描きの姿を求める。

展示風景より、左は《アンリク・クリストフル・リカルの肖像》(1917)

 慌てて付け加えておくが、わたしはこの誤解に基づくツイートに怒っているわけではまったくない(もしツイート主がこの文章をご覧になることがあれば、どうか気を悪くしないでいただきたい。ご観覧とご感想、本当にありがとうございました)。こういったわかりやすい画家のエピソードを振り撒いてきたのも、解説にかじりついてないで作品を見ようと言ってきたのも、ほかならぬわたしたち美術館の人間だ。ちなみに次いで人気のツイートは、東京会場の協賛社ネスレ日本が3月6日(ミロの日)にかけて栄養機能食品「MILO」を会場で配布したダジャレをいじる内容で、この誰でも思いつくようなネタを実行に移した主催社と協賛社の「中の人」が褒められている。なるほど美術館のようにお堅い「公式」であればあるほど、ちょっとしたジョークが効果を発揮する。その仕掛け人として、表には出てこない担当者の姿を想起するのもいまっぽい。

展示風景より