並存する制作と生活
中尾拓哉が見たオープンスタジオ
2016年秋、相模原市と町田市・八王子市周辺で作品制作を行うスタジオによる「042 art area project 2016 SUPER OPEN STUDIO」が開催された。110人以上の作家が参加し、展示や公開制作、パフォーマンスなどが行われたこのプロジェクトを、中尾拓哉がレビューする。
中尾拓哉 新人月評第10回 同じ空、別々の場所 and MORE 「042 art area project 2016 SUPER OPEN STUDIO」
よく知る相模原の見知らぬ道をバスに揺られる。アーティスト企画で複数の展覧会が開催中のアートラボはしもとを後にし、バスツアーへと参加した。周辺の美術大学の卒業生がそのままこの町に住み、共同で制作環境をつくる。家賃もそれほど高くはなく、倉庫や工場の物件も多い。約20年前よりメンバーを入れ替えながら現在へと至るアトリエボイスやクンストハウスをはじめ、新旧入り混じる23軒のスタジオが公開された。
このプロジェクトは2013年に市の主催でTANA Studioの井出賢嗣、REVの山根一晃、LUCKY HAPPY STUDIOの千葉正也の協力のもと発足し、昨年から参加アーティスト主体の運営団体によって行われている。STUDIO VOLTA、STUDIOカタクリコ、RMPの2階建ての3棟が内に建てられた巨大倉庫、ESAのように保管庫としてもシェアされる広い敷地、モゲスタ、STACK ROOMなど店舗を改装したスペース、Bartlebyや福永大介のような個人の作業場が混在する。公開の形式は、ギャラリー/シェアハウスを兼業する桶屋のオープニング展、青木スタジオ(仮)の陶芸教室展、相原スタジオの建物全体での展示、Art space Kaikas'の企画展から、studio kelcova、STUDIO牛小屋などの普段の状態に近い制作現場まで一様ではない。
そこは大量の過去作、試作、未発表作、新作、そして制作中のものであふれている。缶コーヒーの刺さる高山陽介の木彫、モチーフの鏡の横にある久野真明のポートレート、残った小銭を描く佐藤純也のキャンバスの束、水墨画の画題と記号を並置する佐藤修康の絵画、室内に空き地をつくる中村太一のインスタレーション、相模原障害者施設殺傷事件をリサーチする男澤洋一郎の記録、珊瑚を頭部に用いた加藤泉の立体......。さらに、詩を二進法へ変換した打楽器音とともに詠み流される早川真奈の俳句、未撮影のままSF映画を宣伝するSPACE OPERAのグッズ販売、PUMAを絵画の外にまで走らせる今津景の壁画と、ゲストの作品にも遭遇する。pimp studioではボディビルダー・クロッキー会、アトリエ481では木彫ワークショ ップが開催され、studio banのバーベキューに加わったり、突如観光地化してしまうような二DECの移動式売店で土産品を物色したりするのも楽しい。
こうした乱雑さは制作の場から展示の場への変換よりも、私的であり公的でもあるスタジオが、制作と生活、そして作品とそれ以外のものをなだらかに、すべてを過程として連続させていることによるのだ。このような場の集合であれば、キュレーターやギャラリストなどに作品を見せる活動、近隣住民や施設などと連携する活動、あるいはどちらからもこぼれてしまうまったく別の活動を、同時に広く多空間的に並存させていける。「この土地にある」という関係以上ではなかった100人を超えるアーティストのつながりの中で「フリースタイルフォトバトル」から「宇宙エレベーター開発」までを「制作する」という目的が結んでいく。来年で5回目を迎えるが「50年続ける」という声も。共有されるのは、同じ空、別々の場所で生まれるインスピレーション、そして未だ見知らぬ道をたどり続ける制作のプロセスである。
PROFILE
なかお・たくや 美術評論家。1981年生まれ。最近の寄稿にガブリエル・オロスコ論「Reflections on the Go Board」(『Visible Labor』所収、ラットホール・ギャラリー、2016年)など。
(『美術手帖』2017年1月号「REVIEWS 10」より)