EXHIBITIONS

丸沼芸術の森所蔵 ベン・シャーン展

2020.06.16 - 07.29

ベン・シャーン 槍に取り囲まれるハムレット 1959 丸沼芸術の森所蔵 © Estate of Ben Shahn/ VAGA at ARS, NY/JASPAR, Tokyo 2020 E3693

 アメリカを代表する画家のひとり、ベン・シャーン(1898〜1969)。リトアニアのユダヤ人家庭に生まれたシャーンは、社会主義者である父の逃亡により、8歳でニューヨーク・ブルックリンへ移住。そこで石版画工房で働きながら学校へ通い、社会的事件に目を向け、人々の心に寄り添うようにして制作を続けた。

 アメリカを揺るがしたサッコとヴァンゼッティ事件(1920)を取り上げたシリーズで一躍有名となったシャーン。また、1930年代に行われたニューディール政策の一環で、連邦社会保障ビルの壁画などを手がけ、アメリカ南部の貧困の実情を写真に収める仕事にも取り組んだ。42年に戦時情報局に入ってからは、選挙促進ポスターをはじめとするグラフィック・デザインを制作。政府からの依頼を受けると同時に、つねに弱者や一介の個人に対して深い愛情に満ちた眼差しを向け続けた。

 晩年は、クリスマスの数え歌「梨の木にとまるヤマウズラ」や、リルケの『マルテの手記』から24場面を抜き出し、リトグラフ版画集として出版した《マルテの手記》を制作。そして、自身のルーツであるユダヤ教に依拠した書籍のブックデザインにも携った。

 日本との関わりについては、57年に『ハーパーズ・マガジン』誌の依頼で、第五福竜丸事件を取り扱った記事の挿絵《ラッキードラゴン》シリーズを制作し、被曝した船員たちがたどった苦しみの日々を、怒りと哀しみをもって描いた。その作品は、彫刻家の佐藤忠良、デザイナーの朝倉摂をはじめ、グラフィック・デザイナーの粟津潔、和田誠らに大きな影響を与え、そのなかでも、『現代アメリカ絵画』(講談社、1955)において、シャーンを日本に初めて紹介した新潟出身の画家・写真家である阿部展也(のぶや)は、シャーンの4日間の京都滞在に密着するなど特筆すべき交流を持った。

 本展では、丸沼芸術の森(埼玉)が所蔵する約300点のシャーン作品より、初期から晩年にかけての水彩やテンペラ、インクなどによる、選りすぐりの作品172点を展示。さらに、シャーンから阿部展也に贈られた《ペンを握る手》(1960)や、阿部が撮影したシャーンの写真資料を通して、ふたりの交流も紹介する。