2017年展覧会ベスト3
(『美術手帖』編集長・岩渕貞哉)
数多く開催された2017年の展覧会のなかから、6名の有識者にそれぞれもっとも印象に残った、あるいは重要だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回は番外編として『美術手帖』編集長・岩渕貞哉編をお届けする。
|マシュー・バーニー『RIVER OF FUNDAMENT』
(山口情報芸術センター [YCAM]、2017年8月24日)
アメリカを代表する作家ノーマン・メイラーの小説を下敷きに、古代エジプト神話とアメリカの現代が交錯する映像叙事詩。三幕にわたり繰り広げられる死者(ノーマン)の死と再生の儀式はついに失敗に終わるのだが、その神話的な循環する時間と運命を引き受ける覚悟の感覚が、ある種の享楽とともに到来する。どの場面を切り取っても美醜ないまぜの圧倒的な絵づくりが、観る者を6時間にわたり忘我の境地に誘う。ヴィジョナリーとしてのアーティストの才能を見せつけられた。
|杉戸洋 とんぼ と のりしろ
(東京都美術館、2017年7月25日〜10月9日)
モダニズム建築の巨匠・前川國男の建築事務所による、都市の中の広場のような吹き抜けの空間をはじめとする重厚な展示空間を、杉戸洋がどのように料理するのか。私の第一印象は上野に昭和からあるような「純喫茶」だった。素材の質感とバランス、光線や色の構成や目線の誘導で、ここまで体験の質を変えられるのかという驚き。アーティストにしかなし得ないテクネーでありながら、その感触は観客が持ち帰ることのできるものでもあった。
|Reborn-Art Festival 2017
(宮城県石巻市など、2017年7月22日~9月10日)
2017年も数多くの芸術祭が開かれたが、そのなかでも、宮城県石巻で開かれたこの芸術祭がもっとも記憶に残った。石巻の街中、被災地に近い海沿い、自然の溢れる牡鹿半島など、それぞれ特徴あるエリアをたどりながら出会う体験が、被災者への鎮魂、地域の歴史と住民との交流、自然への畏敬、旅の開放感とさまざまで、アート作品がもたらす感覚・感情の質が圧倒的な起伏に富んでいたゆえだろう。