博物館法よ、お前もか。
2月22日、博物館のあり方を定義する「博物館法」の改正案が閣議決定された。博物館への登録要件を緩和するかたちとなった今回の改正の問題点を、博物館法が専門の名古屋大学教授・栗田秀法が指摘する。
文化観光施設へと突き進む博物館
保存から活用へと大きく舵を切った文化財保護法改正が、「稼げない文化財は存在意義がないのか?」などの議論を巻き起こしたことは記憶に新しい。進め方に性急感の否めない今回の博物館法改正も官邸主導のものであったことが判明し、博物館法の目的に社会教育法に加え「文化芸術基本法の精神に基づく」ことが定められるほか、博物館の事業に「地域の多様な主体との連携・協力による文化観光、まちづくりその他の活動を図り地域の活力の向上に取り組むこと」を努力義務として追加するのだという。「文化の振興を,観光の振興と地域の活性化につなげ,これによる経済効果が文化の振興に再投資される好循環を創出することを目的とする」文化観光推進法との擦り合わせも明らかであり、地方創生相の「学芸員はがん」(2017)発言以来のレールの延長上にあるといってよいものである。文化庁としてはこれだけで九割方目的を果たしたのだと言えようが、理念上は社会教育施設だった博物館が名実ともに文化観光施設となることは博物館法にとって革命的な変更(立場によっては破壊的な改悪)であることに留意が必要である。
先送りされた学芸員制度
実際、日本博物館協会や日本学術会議からの提言の内容はほんの一部、しかも不十分なかたちでしか反映されておらず、文化審議会の文化審議会の答申も学芸員制度の改正には踏み込まず登録制度の改正に限られたことは周知のとおりである。先送りされた学芸員制度の改正の議論を待たずに博物館法改正案が出されたことは、文化庁がそれほど重要視していないことの表れなのかもしれない。また登録制度にインセンティブがなくなっていることが登録制度の形骸化につながっているのにもかかわらず、解決への道筋さえ示されていないのは大きな問題であろう。専門職館長の配置や学芸員の処遇改善、調査研究環境の向上等に向けての方策がなんら示されることなく、努力義務ばかりが増える状況のなかで登録博物館離脱の館が今後増大するのではあるまいか。
2008年の社会教育法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(衆議院)(*1)では、「社会教育主事、司書及び学芸員については、多様化、高度化する国民の学習ニーズ等に十分対応できるよう、今後とも、それぞれの分野における専門的能力・知識等の習得について十分配慮すること。/また、各資格取得者の能力が生涯学習・社会教育の分野において、最大限有効に活用されるよう、資格取得のための教育システムの改善、有資格者の雇用確保など、有資格者の活用方策について検討を進めること。」が盛り込まれていたが、今回の博物館改正では鬼スルーに等しい。
思い起こせば、1951年の博物館法そのものが議員立法であった。当時の文部委員会での活発な審議(*2)には博物館への大きな期待がうかがわれる。ぜひ心ある議員の皆さんには、政府提案の法案に甘んずることなく、博物館法の実現のために政府原案の修正もしくは対案の提出に党派を超えてお力添えを頂けるよう切に念ずるものである。
*1──社会教育法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議(衆議院)
*2──第12回国会 衆議院 文部委員会 第7号 昭和26年11月21日
第12回国会 参議院 文部委員会 第13号 昭和26年11月24日