多様な観点で振り返るアートの歴史。12月号新着ブックリスト
『美術手帖』の「BOOK」コーナーでは、新着のアート&カルチャー本の中から毎月、注目の図録やエッセイ、写真集など、様々な書籍を紹介。2017年12月号では、芸術と政治や経済の関係を考える評論や対談集など、4冊を取り上げた。
『芸術の不可能性 瀧口修造 中井正一 岡本太郎 針生一郎 中平卓馬』
日本現代美術史に影響を与えた重要人物であり、著者にとっても思い入れが深い評論家・表現者5名を扱う評論集。シュルレアリスムや前衛写真を思想の糧としてリアリズム絵画に抗した瀧口修造、対極主義を唱えて個人と社会への批判を進めた岡本太郎、国家権力が成立させた「風景」に自己を賭けて挑んだ中平卓馬など。一見それぞれの試みに密接なつながりはないかに思えるが、通読すると芸術/政治の緊張関係が浮かび上がってくる。(中島)
『芸術の不可能性 瀧口修造 中井正一 岡本太郎 針生一郎 中平卓馬』
高島直之=著
武蔵野美術大学出版局|2400円+税
『図像の哲学 いかにイメージは意味をつくるか』
言語とは異なる作用によって私たちを魅了する「図像」。時代や分野によって様々に定義が変化する「図像」の働きを、古代から現代までの芸術作品や解釈学によりながら解明する。ハイデガーの身振りの分析を起点に考察する図像の「指示」作用、イコンとしての機能、モダニズムによって成し遂げられた聖像破壊行為、デッサンに焦点を絞って考察する像の生成のメカニズムなど、多岐にわたる哲学的議論が知見を広げてくれる。(中島)
『図像の哲学 いかにイメージは意味をつくるか』
ゴットフリート・ベーム=著
法政大学出版局|5000円+税
『コレクションと資本主義 「美術と蒐集」を知れば経済の核心がわかる』
経済学者と東京画廊代表が、芸術と資本主義との密接な関係から世界経済の行く末を議論する対談集。西洋のミュージアムを支えてきた「蒐集」(コレクション)の概念を軸に、12~13世紀のイタリアから「閉じた帝国」へ舵を切った21世紀の英米まで、資本主義の変遷とともに美術史を俯瞰する。雄弁な2人のかけあいによって、現代の低金利社会が抱える問題と芸術・批評の可能性、そして来たるべき「新中世時代」の姿が見えてくる。(近藤)
『コレクションと資本主義 「美術と蒐集」を知れば経済の核心がわかる』
水野和夫+山本豊津=著
KADOKAWA|840円+税
『ゴッホの耳 ─天才画家 最大の謎』
美術史に残る未解決事件のひとつ――ゴッホの耳切り事件。彼が切り落とした左耳は、全部か一部か?本書は、この素朴な疑問をきっかけに、画家が晩年を過ごしたアルルの郊外に暮らす英国人著者による、ゴッホの伝記兼作家論である。新聞・書簡など一次資料の精読や、著者自ら作成した当時のアルル市民1万5000人のデータベースを駆使して、「精神病者」ゴッホの人間性が解き明かされる。精神科医・斎藤環による病跡学的視点からの解説も必読。(近藤)
『ゴッホの耳 ─天才画家 最大の謎』
バーナデット・マーフィー=著
早川書房|2200円+税
(『美術手帖』2017年12月号「BOOK」より)