前澤友作にとってアートがもたらすものとは? 第4回CAF賞を終えて
「ZOZOTOWN」を運営するスタートトゥデイ代表の前澤友作が創設した現代芸術振興財団。この財団が主催する学生対象のアワード「第4回CAF賞作品展」が11月5日まで代官山で行われた。会場で自身のコレクションを惜しげもなく展示した前澤。その狙いと、若手作家育成にかける思いを聞いた。
いまや日本を代表するコレクターとして、世界的に注目を集める前澤友作。その前澤が、「現代芸術振興財団」を設立したのは2012年11月。活動理念に ①現代アート芸術展の開催による普及事業 ②現代アートの表彰事業 ③若手芸術家及び若手音楽家への助成事業 ④この法人の目的を達成するために必要な事業 の4つを掲げ、展覧会やアワードなどこれまで様々な活動を展開してきた。
そんな現代芸術振興財団がこの秋、代官山で開催したのが「第4回CAF賞」だ。
同賞は、学生を対象とした若手アーティスト育成を目的とするアートアワードとして2014年より実施。審査員に白石正美(SCAI THE BATHHOUSE)、藪前知子(東京都現代美術館)、齋藤精一(Rhizomatiks) を迎え、16人の作家がそれぞれの新作を展示した。11月3日に行われた表彰式では、この中から最優秀賞1名・木村翔馬(京都市立芸術大学)と審査員特別賞3名、白石正美賞・大久保紗也(京都造形芸術大学)、藪前知子賞・小山しおり(京都造形芸術大学大学院)、齋藤精一賞・菅雄嗣(東京藝術大学大学院)、そして海外渡航費授与・大岩雄典(東京藝術大学大学院)が選出された。
木村の受賞作《けん玉の神さま》は、VR上のペイントソフトで制作したドローイングをベースに、実際のキャンバスに油絵具やマーカーペンなどで描いたもの。重力や質感が存在しないVR空間での制作を、現実世界にいかに落とし込むかに挑んだ。「写真の誕生が絵画のあり方を変えたように、VRでペインティングのあり方を更新したい。これはVRで描いた人の絵だとわかるものをつくりたいんです」と語る。白石は今回の賞について、「ここからなにが出てくるのか興味深く、これからの活動を見てみたい。期待も含めて決めた」と選考理由を話す。
なお、今回のCAF賞では、前澤が今年5月にサザビーズ・ニューヨークで約123億円で落札し、世界的にニュースとなったジャン=ミシェル・バスキアの《Untitled》(1982)をはじめ、クリストファー・ウール《Untitled》(1990)、マーク・グロッチャン《Untitled (Blue Butterfly Dark to Light Ⅳ)》(2006)など全5点が特別に展示された。この異例ともいえる展示をなぜ前澤はここで行ったのか? 本人に話を聞いた。
——そもそも、コレクターである前澤さんが、このCAF賞のように若手作家を育成・支援するのはなぜなのですか?
「育成」だなんて偉そうなつもりはなくて、僕は学生だろうがベテランだろうが、分け隔てなく「いいものはいい」というスタンスで応援するし、買います。その一環がCAF賞なんです。
——その「CAF賞」の今後についてはどうお考えですか?
今回、学生の作品とバスキアなどの作品を同時に展示していますが、僕はそういう偉大なアーティストがつくった作品を見せることも、若い方々を応援することもできる。両方できる立場にいる人はなかなかいないと思うので、そこをバランスよくやっていきたいですね。互いが刺激を与え合う場になればいいなと思います。
——今回はおっしゃったバスキアの《Untitled》を含め、5点の作品を展示していますが、ここにはどういう狙いがあったのですが?
バスキア目的で来る人もいっぱいいると思いますが、そういう人にも学生の作品を見せることができる。参加している学生やその友だちにとっては、バスキアを生で見る機会(もしかしたらこれが初めてだという人もいるかもしれない)であり、創作活動にも生きると思う。相乗効果になるんじゃないかなと思って、会期の数日前に決めました。それに、バスキアがしばらく海外に行って日本で展示する機会もないので、ここで見せようと。
——現代美術から古美術まで、様々な作品を購入してますが、前澤さんがアートをコレクションする理由とはなんなのでしょうか?
理由なんてないですよ(笑)。ただ好きだから。
——海外のオークションハウスで作品を落札することも多いと思いますが、日本のアートマーケットについて思うことはありますか?
なんにもないですね。でも、自分の買い物に文句を言われるのはイヤですよ。僕は誰のことも悪く言わないので、放っておいてほしいですね。
——アートは前澤さんに何をもたらしているのでしょう?
うーん、そうですね......。アートと暮らしていると、日々感謝の気持ちで生活できますね。大量生産されたものじゃなくて、一点モノや大事に受け継がれてきたものと暮らすことで、それをつくったり、描いたりした人に思いを馳せることができる。そうすると感謝の気持ちで生きられる。それがいいですね。
——これまでも財団の活動の中で、たびたびコレクションを展示されてきましたが、今後もその方針に変わりはありませんか?
はい、どんどん見せていきたいですね。このバスキアも子供に人気があって、それがすごくよかった。いろんな人が僕のコレクションで刺激を受けてくれればいいですね。