テクノロジー・カルチャーの祭典「Media Ambition Tokyo」が社団法人化。目指す将来像とは?
一般社団法人化後初の開催となった2019年のMedia Ambition Tokyo(MAT)。設立メンバーである谷川じゅんじ、孫泰蔵、杉山央の3名に法人化の背景と展望を聞いた。
21世紀型のエコノミーを実践する場
──MATを社団法人化された経緯や意義について教えてください。
谷川 中長期のビジョンを持ってMATの活動に取り組んでいることをメッセージとしてきちんと社会に発信するという意味が一番大きいですね。MATには個人から企業までさまざまな方が参加しています。こうした参加者たちに対するMATのブランドの信用を高めていくために法人格を持つことは有効であると考えました。
──孫さんは普段、Mistletoeを通じてベンチャー投資やイノベーター育成に取り組まれていますが、MATに参画されたのはなぜですか。
孫 起業家支援だけでは十分ではないと感じるようになったためです。イノベーターとは、世の中を普通の人とは違った見方で見ている人。起業家だけでなくアーティストと呼ばれるような人たちも、ある意味イノベーターだと僕は思うんです。いまはまだテックイノベーションとアートは遠い世界にありますが、そこをつないで生態系を構築していきたいと考えていたときに谷川さんにお会いしてMATの活動に共感し参画することにしました。
MATを今後さらに大きくしていくことを考えると、必要なのはエコノミー。エコノミーという言葉は、ギリシャ語の"oikonomics(=分配)"が語源です。社団法人化によって、作品がお金になりそれが分配されて次の制作の原資になる——といったエコノミーのチェーンが機能する仕組みを実装していければと思っています。
谷川 従来の20世紀型エコノミーは、基本的にはマーケットをクローズしてお金や知識をストックしてそれを回していくという形でした。21世紀型のエコノミーはそうではなく、オープンとシェアの精神が重要になるのではと思っています。今まで限定されていた物事を皆に開示して使ってもらう形にすることで、支援者やパートナーの選択肢が増え、それらがつながっていく形になるのでは、と。
──シェアやオープンといった考え方はまさに、oikonomics(=分配)の価値観に近いものだと思います。
谷川 一部の人だけが利益を享受しているのではなく、参加者の皆さんにフェアだと感じてもらえるような安心感をつくっていきたいという考えは、これまでMATが大事にしてきた部分でもあります。
──MATのメイン会場となる六本木ヒルズなどの企画も担当している杉山さんとしては、どのようにしてこうした課題に貢献していくお考えですか?
杉山 第1回目からMATに参加するなかで、駅からの距離や建物のスペックで不動産価値が決まる時代から、そこで何が行われていてどういうネットワークやコミュニティがあるかということが重要視される時代に移ってきていることを実感しました。森ビルとしてもMATに参加することで、新しい未来をつくりだすことにつなげていきたいと考えたんです。僕個人としては、まだビジネスになるかもわからないような新しいテクノロジーを自身の表現として世の中に出すためにメディア・アートに取り組むクリエイターを応援したいという思いもあります。
東京をメディア・アートの「本場」にしたい
──2020年を迎えるにあたり、「東京」という都市をどう差別化していくかということも重要なポイントになると思います。
杉山 現在、東京ではいくつもの再開発プロジェクトが進んでいます。街には文化や個性が必要だと思っています。そして個性を出すためには、街を自ら活用できるような、都市をサービス化していくことのできる集団が必要です。
孫 いわゆる都市計画は、何十年という長期スパンで考えるものです。そして、何十年、何百年先の人類の感覚ってどういうものなんだろう、ということを考えているのはアーティストだと思っています。なので、若者や子供たちに加えて、アーティストの意見や考え方を都市計画に取り入れてトライ・アンド・エラーをしていくと面白いのではないでしょうか。
谷川 やはり都市の面白さって、そこにいる人の面白さだと思うんですよ。では、どこにどうアクセスすればそういった人たちとつながれるのか考えたときに、「この指とまれ」の指をどう立てておくべきか考えておくことは大事だと思っています。
──MATもイベント開催だけでなく、そういった活動体として発展していくと面白そうです。
谷川 そういう意味では、社団法人として通期でいろんなことに取り組める事務局をつくる必要性は感じています。
杉山 日本を海外から見たとき、たとえばマンガ・ゲーム・アニメなら、秋葉原や池袋、中野、ファッションだったら原宿、といったように、いわゆる「本場」があります。でも、メディア・アートって現状では中心となる場所がまだ少ないんですよね。MATが今後そうした役割を担っていくことができれば、日本はもっと求心力を高めていけるのではと感じています。クリエイターやアーティストに対して、いかに自由な発想を持てる場やネットワークを提供していくかが、これからの都市にとって非常に重要な視点であると思っています。
谷川 そこで大事なのは、規模の拡大が特定の人の利害に依存しないようにすること。自然にネットワークが広がっていくことが理想です。いまの時代、誰とつながるかによって生まれるものすら変わっていきます。こういう人たちと何か一緒にやってみたいという動機を大切にしていきたいですね。