新旧を織り交ぜた独自の百鬼夜行 学展大賞受賞の水野幸司に聞く
学生の作品を広く募集し展示する「第66回学展」が、8月16〜19日にシアター1010(東京・北千住)で開催。18日には入賞者が集まり、表彰式が行われた。2回にわたってその様子を紹介する。前編の展覧会レポートに続いて、後編では、学展大賞を受賞した駒込中学校高等学校の美術部に所属する1年生、水野幸司に話を聞く。受賞作品《百鬼夜行2016》に込めた意図や、美術を始めたきっかけについて、ひもといた。
自分なりの「百鬼夜行」を探る
──学展大賞の受賞、おめでとうございます。多くの応募作品が油絵で色鮮やかに描かれているなか、ボールペンや墨など黒一色で描かれた作品が受賞したのは、意外な印象でした。
賞はもらえないだろう、と思っていたので驚いています。いままで学展で入賞してこなかったような絵を描きたいな、と思っていたので、「大ひんしゅく」を覚悟で応募しました。
──「百鬼夜行」といえば、古くから説話などに扱われてきた題材です。どうして、その妖怪を描いたのですか。
まず、この絵は落書き感覚で描こうと思ったんです。そう思ったときに妖怪が頭に浮かびました。はじめに妖怪「おとろし」を描き、そこからどんどん、下書きせずに増やしていきました。
昔に描かれた「百鬼夜行」を見ていると、たとえば江戸時代の「海坊主」は真っ黒で不気味ですが、ほかの時代に描かれたものには船を持ったかわいらしい姿もある。時代と一緒に妖怪のビジュアルも変わっていくのかな、と。モデルにした妖怪はいますが、自分なりに考えて描いていきました。
──この作品は部活の時間に描かれたそうですね。美術部の先生はどんなアドバイスをされていましたか。
基本的には生徒の自由にさせてくれるので、先生はアドバイスというより感想をくれました。でも、今回「ボールペンで描いたらどうか」と提案してくれたのは先生です。
──画材は何を使用したのでしょうか。
画用紙に、墨とボールペンとマジック、それから修正ペンを使って質感を出しました。昔の「百鬼夜行」は平面的に描かれたものが多いのですが、立体的に描いてみるのもおもしろいかと思い、様々な要素を取り入れました。
──写実的な描き方とマンガのような描き方を、妖怪ごとに描き分けていますよね。
右上の妖怪は「がしゃどくろ」をモチーフにしていて、古来の絵にはないような模様をつけています。それから左上にいる「鬼」も、昔はこんなに大きい目で描かれていなかった。黒く塗った上から修正ペンで白くして、そこにさらに描き加えています。
多様な作品制作のルーツ
──1枚の絵のなかにたくさんの描き方が混在しているのは、この作品の魅力のひとつだと思います。どうやってこれらの描き方を学んでいったのでしょうか。
もともと絵を描くのが好きで、鉛筆で描いていました。中学2年生の頃、「スギヤマ・アートルーム」(東京・根津)という場所に行く機会があり、そこで初めてペン画を知りました。主宰する先生のボールペン画は、町並みが綿密に描写されていて写真にはない味わいがありました。ボールペンだと濃淡が1本で完結しますよね。「これだな!」と思い、それがボールペン画を描き始めたきっかけです。そのあと、大友昇平さんというペン画のアーティストを知り、彼からも影響を受けました。今回の《百鬼夜行2016》も、大友さんの描き方を参考にしています。
──大友昇平はその細密な描写力で評価されているアーティストですよね。そのほかに影響を受けた作品はありますか。
村上隆さんや水木しげるさんの作品です。水木先生のマンガは小さい頃から愛読していました。作品の右側にいる妖怪は、村上隆さんの「DOB君」の影響かなと自分で思っていますが、友だちにはアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』みたいと言われました。
──たしかに、アニメやマンガを参考にしているような部分もありますね。
はい、よく見ているので影響を受けていると思います。特にマンガの表現方法には驚かされます。役者に演じてもらう映画とは異なり、マンガは登場人物の細かな動きまでを作者ひとりが表現できる。ペン先だけでハリウッドに負けないくらいの世界をつくっていると思います。マンガは子どものものという先入観がありますが、そんなことはないですよね。それとマンガだけでなく、小さい頃から「ウルトラマン」も好きでした。
──特撮の「ウルトラマン」は、マンガやボールペン画とはまた異なる表現方法ですよね。どんなところが好きですか。
初期の「ウルトラマン」が好きで、繰り返し見ています。現在ほど映像技術が発達していない頃に、工夫をして手づくりで表現している。その手ざわり感のある世界観に、引き込まれます。
──これからはどんな絵を描いてみたいですか。
色や絵具を使って今回とは違うスタイルで描いてみたいです。いっぽうで、日本的なものは今後もテーマにしていきたい。「日本的」といっても伝統的な文化だけではなく、現代のアニメやマンガも含めて。「ウルトラマン」のような特撮も日本の文化だと思っています。
──現代美術やマンガ、アニメ、特撮と、柔軟にたくさんのジャンルを吸収していることに驚きました。最後に、来年に応募する人に向けて一言お願いします。
学展の応募作品は油絵が主流ですが、表現はもっと自由なものだと思うんです。学展の募集要項にも「こういう絵を持ってきてください」とはほとんど書かれていない。もっと、ここまでやっていいのか、というくらいの自由な作品が増えるといいと思います。