アジアのアートフォトの新たな地平を目指す。「T3 PHOTO ASIA」のキーパーソン2人に聞く
アジアの写真文化をより深く掘り下げ、現代のアートフォトの新しい方向性を模索するアートフェア「T3 PHOTO ASIA」が、10月18日〜21日に東京ミッドタウン八重洲で開催される。フェアの目標や見どころ、そしてアジアのアートフォトシーンにもたらす影響などについて、フェアディレクターのキム・ジョウウンとコミッティの高橋朗にインタビューを行った。
「T3 PHOTO ASIA」の誕生とその背景
──まず、T3 PHOTO ASIAの開催経緯や同フェアを立ち上げた動機についてお聞かせください。
高橋朗(以下、高橋) 「T3 Photo Festival」というフェスティバルは2017年から7年続いています。昨年、そのフェスティバルをさらに発展させ、アーティストへの還元を強化するために新しい軸をつくりたいというお話をいただき、11月からフェアの準備を始めました。
キム・ジョウウン(以下、キム) 世界的に有名な写真アートフェアとしては「パリ・フォト」が挙げられますが、アジアにはそれほど重要な写真フェアが存在していませんでした。私としては、アジアの写真家を集め、過去と現在をつなぐ新しいプラットフォームをつくりたいと考えていました。このフェアの名称「T3 PHOTO ASIA」には、日本の写真家だけでなくアジア全体の写真家を対象にしているという意味が込められています。異なる文化的背景を持つ人々が集い、お互いを知り、現代のアートフォトグラフィーの行く先を理解する場を提供したいと思っています。
正直に言えば、これまでは西洋のアートフォトグラフィーから多くを学んできましたが、いまはアジアの写真に触れたいとう思いを強くもっています。そこで、若手写真家にスポットライトを当てた「Discover New Asia」という特別展示を企画しました。これらの写真家たちは、写真という枠にとらわれず、様々な文脈で実験的なアプローチを行っており、非常に興味深いのです。
──特別展示「Discover New Asia」と「Masters」についてもう少し詳しく教えていただけますか。
高橋 「Discover New Asia」では若手の実験的な作品を、「Masters」では歴史的な作品を展示します。このふたつを対比させることは非常に興味深いです。「Masters」では、丸川コレクションの協力を得て、日本と韓国の1930〜50年代の貴重なヴィンテージプリントなどを展示します。これらの作品はオリジナルプリントで、普段なかなか目にすることができないものですので、ぜひこの機会にご覧いただきたいですね。
「Discover New Asia」では、私自身も知らなかった若い作家たちが出展しています。フィルムからデジタルへと移行しながら、写真というメディウムとどのように向き合っているのかがよくわかる展示となっています。写真は現実を切り取るものという印象がありますが、抽象絵画のような作品や、暗室の中で光を使ってつくられた作品もあり、写真の特性を活かした表現が見どころです。
キム 「Masters」では、韓国初の写真家のパイオニアであるイム・ウンシク(林應植)の作品を展示します。彼は韓国のアルフレッド・スティーグリッツのような存在で、個人コレクションから6点のヴィンテージプリントを初公開します。これらの作品は韓国でも展示されたことがない非常に貴重なものです。また、同時期の作品でも、韓国と日本の写真家のあいだには異なる変遷が見られ、若い世代にとっても新鮮な発見が多いでしょう。
高橋 日韓の30〜50年代の戦前・戦後の作品を見ていると、写真史だけでなく歴史的な背景が作品に大きな影響を与えていることがわかります。歴史を学ぶ際には、何が起こったかを知るだけでなく、それが人々にどう影響し、写真にどう反映されたのかを知ることができます。写真を通じて何かを知る楽しみは、美術鑑賞を通じて知覚を揺さぶられるような体験と同じだと思います。また、フェアでは各ギャラリーが現在もっとも注目している作品を持ち寄りますので、そこも楽しみにしていただければと思います。
──歴史的な作品と実験的な作品を同時に楽しめるのが、このフェアの醍醐味のひとつですね。
キム 私たちが目指しているのは、カメラのレンズを通してアジアやその文化を見つめることです。「Masters」では過去、現在、未来という時間軸を意識しており、過去を振り返りながら現在と未来を見ています。いっぽうで「Discover New Asia」では、現在と未来に焦点を当てています。写真はそのための素晴らしいツールですね。