「やきもの」を起点に芸術と産業について考える。梅津庸一による「窯業と芸術」が信楽各所で開催
窯業の町・信楽を散策しながら窯業と芸術の関係について考える、アーティスト・梅津庸一の企画「窯業と芸術」が開催される。
窯業の町・信楽を散策しながら「やきもの」を起点に、芸術と産業について具体的に考える催し「窯業と芸術」が、アーティスト・梅津庸一の企画により開催される。会期は7月16日〜8月3日(「gallery KOHARA」での展示のみ8月8日まで)。
会場は「gallery KOHARA」「陶園」「丸倍の自習室」の3ヶ所となっているが、ほかにも信楽の町に点在する陶芸工房やショップ、飲食店なども散策ルートとして提案されている。
以下、メイン会場での展示概要を紹介したい。「gallery KOHARA」は信楽駅口交差点にあるジャズの流れる器のギャラリーショップで、オーナーの小原康裕は陶芸家でもある。ここで開催される梅津庸一の個展「器に就て」は、梅津作品における器へのアプローチに焦点を当てる展覧会。かつてピーター・ヴォーコスは穴の空いた器「アイス・バケット」をつくったが、梅津は器をひっくり返してオブジェの台座に仕立てるという。
「陶園」は、信楽でもっとも古くからあるカフェギャラリーで、店内には元走泥社の笹山忠保による衝立をはじめ、数々の陶芸家の作品が並ぶ。ここの2階のギャラリーで開催される梅津庸一企画展「オリエンタリズムと想像力」は、梅津が陶芸に興味を持つきっかけとなった「民藝」がテーマ。河井寛次郎の流れを汲む伊藤昭人や、日本の「民藝運動」の影響を受けたニュージーランドの陶芸家ジェイムス・グリーグ、スウェーデンで陶芸を学び近代的な人体彫刻を学ぶために日本に留学したという経歴を持つバージニア・クリセヴィシュートのほか、信楽の陶器店で梅津が見かけて蒐集した量産品の器や、梅津による器の絵付けを彷彿とさせるドローイングなどを展示。
そして「丸倍の自習室」は、丸倍製陶を間借りした梅津の工房が会場。ここで開催される梅津庸一個展「濡れた粘土が乾くまで」は、通常であれば展覧会に出展されることのない焼かれる前の生の粘土とともに、陶工と美術家のあいだで揺れる梅津の自我がつくり出す空間の秩序を見せるという。日々の作陶の痕跡と少しの演出による、ワーク・イン・プログレスでもスタジオビューイングでもないものを目指す。
ステートメントによると、梅津は現在信楽にアパートを借りたうえで、丸倍製陶の一角を間借りして作陶に没頭する日々を送っているという。「陶芸を通して『人がものをつくるとはなにか』という根本的な問いと出会い直したように思う」と語る梅津は、作家や陶芸家による陶器以上に、量産品としてつくれたセラミック製品がいたるところにある信楽の町に着目した。
こうした環境において「絵画も工場で作られた既製品をただ加工しているに過ぎなかったのではないか」という問い立てをした梅津。「芸術」や「つくること」、ひいては地域アートや芸術祭を再考できる機会として、本企画を世に問うという。