2025.2.18

柳幸典、ミラノでヨーロッパ初の大回顧展「ICARUS」を開催。新作とともに壮大なインスタレーションが登場

柳幸典のヨーロッパ初となる大回顧展「ICARUS」が、ミラノのピレリ・ハンガービコッカで開催される。柳の代表作と新作が一堂に会し、巨大な展示空間を活かした没入型インスタレーションが展開される。会期は3月27日〜7月27日。

柳幸典 Hinomaru Illumination 2010 ART BASE 百島(尾道) © YANAGI STUDIO, Courtesy of the artist‬
前へ
次へ

 ミラノの現代アートセンター、ピレリ・ハンガービコッカで、柳幸典のヨーロッパ初となる大規模回顧展「ICARUS」が開催される。会期は3月27日〜7月27日。

 本展では、柳が新作を発表するとともに、1990年代から2000年代にかけて発表した作品を再構築し、サイトスペシフィックなインスタレーションとして展示する。柳の作品がどのように時代と社会に対する深い洞察を提供してきたかを顕彰する貴重な機会となる。

柳幸典 撮影=福田秀世‬

 柳は、1993年にヴェネチア・ビエンナーレに出展し、色砂でつくられた170枚の国旗が蟻によって侵食される作品《The World Flag Ant Farm》で注目を浴び、アペルト部門で日本人として初めて受賞。今回の回顧展は、柳が32年を経て、初めて国際的な評価を得たイタリアにおいて最大規模で行われる個展となる。

 ピレリ・ハンガービコッカは、ミラノのビコッカ地区にある元工業施設を改修して設立された現代アートセンターであり、広大な展示スペースを誇る。とくに、展示空間「ナヴァテ(Navate)」は、天井高約30メートル、幅30~60メートル、総面積5600平米にわたる広大な空間であり、これを活かして柳は壮大なインスタレーションを展開する。またこのスペースは、アンゼルム・キーファーなどの大型インスタレーションが常設されており、定期的に大規模な企画展が開催される場でもある。

アンゼルム・キーファー The Seven Heavenly Palaces 2004-2015 2016‬ ピレ‬リ・ハンガービコッカ(ミラノ)
Courtesy the artist and Pirelli HangarBicocca, Milan‬. Photo Lorenzo Palmieri‬

 本展のタイトル「ICARUS」は、ギリシャ神話に登場するイカロスが太陽に近づきすぎて焼け落ちる運命をタファーとする柳の「Icarus」シリーズから着想を得ている。柳はこれまでにも「Icarus」シリーズを通じて、失敗や危機、そして人間の限界について深いメッセージを込めてきた。2008年竣工した犬島精錬所美術館の銅の精錬所遺構と一体化した恒久作品《Icarus Cell》をはじめとする既存の作品を再構築して展開される予定だ。

柳幸典 Icarus Cell 2008 犬島精錬所美術館‬ 撮影=泉山朗土‬
© YANAGI STUDIO, Courtesy of the artist and Fukutake Foundation,‬ Naoshima‬

 この「ICARUS」を軸に、展覧会は《Project God-zilla 2025 - The Revenant from “El Mare Pacificum(‭太‬‭平‬‭洋‬‭の‭亡‭霊‭)”》(2025)から始まる。同作は、核エネルギーによって力を得たゴジラの巨大な目が、廃材や瓦礫のなかに投影されるもので、核兵器の使用が環境に与える影響を描き、ポストアポカリプス的なシナリオを描写している。この作品と対話するかたちで展示される《Article 9》(1994)は、展示空間に点在する複数のネオン構造物で構成‬される作品で、点灯・消灯が断続的に繰り返される。

柳幸典 Project God-zilla Onomichi U3 2017 県営上屋3号倉庫(尾道)
© YANAGI STUDIO, Courtesy of the artist‬
柳幸典 Article 9 1994 釜山ビエンナーレ2016‬ 撮影=泉山朗土
© YANAGI STUDIO, Courtesy of the artist‬

 ナヴァテの中心空間には巨大な迷路のような作品《Icarus Container 2025》(2025)が展示される。この作品は、複数のコンテナで構成され、建物の外にあるタワーと連結しており、自然光が差し込む設計となっている。また、来場者はこの迷路を歩‬きながら、三島由紀夫の自伝的エッセイ『太陽と鉄』(1968)から引用された詩「イカロス」の一節に出会うことになる。詩の一部は鏡に刻まれており、鏡の反射によって独特の視覚体験が生み出される。

柳幸典 Icarus Container 2018 第21回シドニー・ビエンナーレ‬
‭© YANAGI STUDIO, Courtesy of the artist and Biennale of Sydney‬

 展覧会は《Hinomaru Illumination 2025》(2025)というネオンインスタレーションへと続く。この作品は、日本の国旗「日の丸」を水面に反射させ、その象徴性を問い直す動的な要素を取り入れている。

柳幸典 Hinomaru Illumination 2010 ART BASE 百島(尾道)
© YANAGI STUDIO, Courtesy of the artist‬
柳幸典 Hinomaru Illumination 2010 ART BASE 百島(尾道)
© YANAGI STUDIO, Courtesy of the artist‬

 展覧会の最後には、柳の代表作《The World Flag Ant Farm 2025》(2025)が展示される。この作品は、国連加盟国193、非加盟国7を含む200の国家を表す旗が並べられ、透明なアクリルボックスに収められている。中ではでは無数の蟻が砂粒を運びながら通路をつくり、国家のアイデンティティや国境が徐々に解体されていく様子を描いており、蟻の動きはこれら‬の象徴の脆弱性をアイロニックに露わにしている。

柳幸典 The World Flag Ant Farm 1990 1990 ベネッセハウス ミュージアム(直島)
© YANAGI STUDIO, Courtesy of the artist and Benesse Holdings, Inc., ‬‬Okayama‬
柳幸典 The World Flag Ant Farm 1990 1990 ベネッセハウス ミュージアム(直島)
© YANAGI STUDIO, Courtesy of the artist and Benesse Holdings, Inc., ‬‬Okayama‬