アーティストがセクハラ加害者の場合、美術館が書くべき3通りのキャプション。「ゲリラ・ガールズ」が1枚のポスターを掲示
ゴリラのマスクを被った、匿名のアクティビスト集団「ゲリラ・ガールズ」。1980年代より美術業界に蔓延するジェンダー問題や不正を訴えてきたグループが次に目をつけたのは、「#MeToo」ムーブメントに対する美術館の対応だ。
ゲリラ・ガールズは、美術業界のジェンダー問題、人種差別といったあらゆる不正を訴えてきた匿名のアクティビスト集団だ。複数人の女性アーティストからなるこのグループは、1980年代のニューヨークで結成。きっかけは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)で開催された「An International Survey of Recent Painting and Sculpture」展(1984)の出品作家165名のうち、女性はたったの13名というジェンダーバランスへの問題意識だった。
その活動方法はポスターの掲示、ストリートアートなど多種多様。代表的なものに、「女性がメトロポリタン美術館に入るためには、裸にならないといけないのだろうか? 近代美術のセクションで展示される女性作家の作品の割合は4%以下なのに、ヌードとして描かれているモデルの76%が女性」と大々的に記したポスターがある。
そしてこのたび、ゲリラ・ガールズが「#MeToo」ムーブメントと美術館の関係に切り込んだ。
発端となったのは、2017年12月、アメリカを代表するスーパーリアリズムのアーティスト、チャック・クロースが複数の女性に対してセクシャル・ハラスメントを行ったというニュースだ。世界の70を超える美術館に作品が所蔵され、政界ともコネクションを持つクロースの作品は美術館でどのように扱われるべきか、いまだに大きな注目が集まっている。
そしてゲリラ・ガールズはこの事件へのリアクションとして、クロースが1992年に制作し、クロースと同様にセクシャル・ハラスメントの告発を受けたことのあるビル・クリントンの肖像画を主題としたポスターを発表。「アーティストがセクハラ加害者の場合、美術館が書くべき3通りのキャプション」として、ロンドンのデザイン・ミュージアムで行われた「Hope to Nope: Graphics and Politics 2008-18」展にポスターを出品した。
ポスターには、「1:作品を寄贈してくれた億万長者やコレクターに配慮する場合」「2:アーティストのセクハラ問題を明らかにしたくない場合」「3:ゲリラ・ガールズがキャプションを書くための手助けをする場合」として、3つのキャプションが示されている。
そしてその答えとして、「1」のキャプションには通常の説明文、「2」には、「クロースは他のアーティストと同様に、従業員に不満を持たれていた」という説明文、そして「3」のキャプションに対しては、次のような長文が記載されている。「クロースは偉大なキャリアを持っているが、モデルや美術大学生にセクシャル・ハラスメントを行っていた。ビル・クリントンの公式ポートレイトを描く画家として、こんなにもふさわしく皮肉な人選はないだろう。そして、アート・ワールドがクロースの絵画を容認するのは、アートは超越的であり“天才”白人男性アーティストにはいかなるルールも適用されないからだ。これは間違っている!」。
悩める美術館の「手助け」をするために、満を持して立ち上がったゲリラ・ガールズ。彼女たちの活動が静まる時代は訪れるのだろうか。