芸術監督・片岡真実が語るシドニー・ビエンナーレの行方
2018年3月に開幕する「第21回シドニー・ビエンナーレ」の芸術監督に、森美術館チーフキュレーターの片岡真実が就任したことに伴い、7月19日に在日オーストラリア大使館で記者会見が行われた。
シドニー・ビエンナーレは、アジア太平洋地域でもっとも長い歴史がある国際展。1973年に始まり、これまで延べ100ヶ国から1800名のアーティスト(日本からは総勢90名が参加)を紹介してきた。片岡はこのビエンナーレにおいて、昨年7月、アジア出身者として初の芸術監督に就任した。
片岡が指揮を執る今回のタイトルは「SUPERPOSITION: Equilibrium and Engagement」(スーパーポジション:均衡とエンゲージメント)。これは量子力学の「スーパーポジション(重なり合い)」から借用されたものだ。多様な文化、自然や宇宙の解釈、政治的イデオロギーや統治制度など、様々な相対する概念がある現代。世界を俯瞰する「均衡」と、物事をより深く掘り下げる「エンゲージメント」をつなげる言葉として「スーパーポジション」は位置しているという。
今回は、シドニー・ビエンナーレの45年の歴史をアーカイブとして中心に据え、同ビエンナーレが果たしてきた役割を振り返るという。また、ビエンナーレ単体のアートイベントというよりも、シドニー市全体をコンテンポラリーアートを通した祝祭としてとらえる考えも示した。
参加アーティストは、4月の時点で野口里佳や柳幸典、アイ・ウェイウェイなど21名が発表されており、今回、新たに16名の追加参加アーティストが明らかにされた。日本からは高山明、井上亜美、そして京都に生まれブラジルを拠点に活動した大竹富江が参加することとなる。
アジア人である片岡が芸術監督になったことから、当初は「アジア的なビエンナーレになるのではないか」という質問が多く寄せられたと片岡は言う。「すでにアジア・パシフィック・トリエンナーレがありますが、それと同じ立ち位置にはならない。これまでのシドニー・ビエンナーレと同じようにインターナショナルでありたい」。
現代は、かつてないほど多くの国際展が開催される時代。片岡はこの現状をどう認識してビエンナーレを動かしていくのだろうか。「私自身は常に(国際展は)本当に必要なのかという問いかけをしています。シドニー・ビエンナーレはシドニーを世界とどうつなげるのかということを課題に、ヴェネチア・ビエンナーレを見本に始まったもの。シドニーにはたくさんのアートスペースがあり、ビエンナーレだけが国際的なものではありません。今回、その45年間のアーカイブを振り返ることで、シドニー・ビエンナーレの役割を振り返りたい。既存の会場にはコレクションを持っている美術館もあります。しかし、ただの貸し会場ではなく、それぞれの美術館の街での役割と、ビエンナーレが関わりを持てるように、作品を借りている。シドニーそのものを見てもらう体験をしてほしいし、ビエンナーレそのものの意義を問い直したいと思っています」。
なお、最終的な参加アーティストは、今年10月に発表される予定となっている。