2018.4.19

アートにのぼせる!
「道後オンセナート 2018」が
グランドオープン

「アートにのぼせろ 〜温泉アートエンターテイメント〜」をコンセプトテーマに、愛媛県松山市の道後温泉で開催されるアートフェスティバル「道後オンセナート 2018」がグランドオープン。旅館やホテル、商店街など道後各所が舞台となるフェスティバルの見どころとグランドオープン式典の様子をお届けする。

「道後オンセナート 2018」メイン会場の一つである道後温泉本館 撮影=高見知香
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 聖徳太子や正岡子規、夏目漱石といった、歴史上のそうそうたる著名人も多く訪れたとされる愛媛県・松山市の道後温泉。このエリア一帯で多彩なアート作品やプロジェクトを展開する「道後オンセナート 2018」が4月14日、グランドオープンを迎えた。

 2014年に初開催され、今年2回目を迎える「道後オンセナート 2018」。今年は、2014年より継続公開中の作品や常設作品を含め、約25名による作品を見ることができる。

 ここではその中から、10名のアーティストによる作品を紹介する。

伝統ある温泉、旅館などが展示の舞台に

浅田政志《鷺の恩返し》の展示風景。道後温泉本館1階廊下の壁一面が使われている 撮影=高見知香

 道後のトレードマークといえば、国の重要文化財に指定され、夏目漱石が頻繁に通ったことから「坊っちゃん湯」としても親しまれる道後温泉本館だろう。ここでは、写真家の浅田政志が《鷺の恩返し》の展示を行う。「足を怪我した白鷺が道後の湯に足を浸すと傷が癒えた」という伝説から着想を得た浅田自らが白鷺の「鷺太郎」に扮して登場する本作は、8連作のポートレイト。白鷺伝説から聖徳太子の来浴から現代の道後温泉の賑わいまで、総勢200人の地元の人々が参加した8枚の写真とともに、写真にまつわるエピソードも掲示されている。

祖父江慎《部屋本 坊っちやん》の展示風景。天井からカーテンまで、余すところなく使用されている 撮影=高見知香

 道後温泉本館をはじめ、歴史ある旅館やホテルも展示会場となるのが「道後オンセナート」の特徴のひとつ。黒川紀章が設計を手がけた宿泊施設「道後舘」では、小説『坊っちゃん』が一冊丸ごと部屋中に展開した、《部屋本 坊っちやん》の一室が。部屋中を読み進めると、いまは使われていない書体も散見されるなど、文字にこだわりを持つブックデザイナー・祖父江慎ならではの空間になっている。

《湯玉の気配:空気の人》制作中の鈴木康広。この様子は、ホテル椿舘ロビーにて映像上映される 撮影=高見知香
鈴木康広《まばたき証明写真》展示中の様子 撮影=高見知香

 日常のなかでの気づき、見立てを起点に作品をつくる鈴木康広は、ホテル椿舘ロビーで2作品を展示する。《湯玉の気配:空気の人》の「湯玉」とは、湯が沸きたつ際に湧き上がる湯の泡で、温泉地・道後では馴染みのある言葉だという。鈴木は、目に見えない「湯玉」を、透明素材で出来た人型の風船「空気の人」の体内に集め、会場にて展示。「湯玉」を集める様子を収めた映像も上映される。また会場では、目を閉じた瞬間にシャッターが切られる体験型の人気作品《まばたき証明写真》も設置されているため、こちらもあわせて体験したい。

松井智惠《青蓮丸、西へ》展示風景。空間は立体、ガラス製ランプ、絵画、サウンドで構成される 撮影=高見知香

 旅館のさち家で作品を発表するのは、1980年代よりインスタレーション、映像、写真などを用いて物語を紡いできた松井智惠だ。作家は今回、道後と自身の故郷・大阪を繋ぐ古の出来事を取材し、時空を越えた旅物語《青蓮丸、西へ》を制作した。会場入り口では物語の綴られたリーフレット「桃源郷通行 許可証」も配布。松井の作品世界に浸りたい。

道後の町中にアート作品が登場

三沢厚彦《Animal 2017-01-B2(クマ)》の展示風景。本作は2017年9月2日のプレオープン時に公開された 撮影=高見知香

 道後温泉本館東側の休憩所「振鷺亭(しんろてい)」にて展示されているのは、重さ1.5トン、高さ3メートルを超える三沢厚彦による巨大なクマ《Animal 2017-01-B2(クマ)》。かつて道後公園にあった「道後動物園」へのオマージュとなる本作は、伝統的な彫刻技法を用いて樟(クスノキ)の丸太から造形を彫り出し、油絵具で彩色した木彫など、動物をモチーフとした「ANIMALS」シリーズのひとつ。ブロンズで鋳造し、彩色を行った作品だ。

三沢厚彦《アニマルハウス in 道後》の展示風景。三沢に加え舟越桂、小林正人、杉戸洋、浅田政志の作品が集まる 撮影=高見知香

 そして《Animal 2017-01-B2(クマ)》の背面、三沢と親交のあるアーティストの舟越桂、小林正人、杉戸洋、浅田政志とのコラボレーション展示が、「アニマルハウス in 道後」だ。自由で開放された絵画のあり方を探る小林、空想的な風景を、繊細な筆致と柔和な色彩で描き、近年は絵画を空間へと拡張させたインスタレーションを手がける杉戸、そして静謐で瞑想的な表情をたたえた木彫の半身像で知られる舟越。日本を代表する作家陣が道後で滞在制作をした作品が「振鷺亭」のウィンドウに集まり、ここでしか見ることのできないコラボレーション展示になっている。インスタレーションには、浅田が撮影した作家たちのポートレイトも含まれ、滞在制作の様子も展示されている。

梅佳代《坊っちゃんたち》の展示風景。商店街の入り口から出口まで、写真14点が並ぶ 撮影=高見知香

  道後の街の各所も、「道後オンセナート」の舞台となる。道後商店街では、梅佳代が「坊っちゃんたち」をテーマに道後で撮りおろした新作《坊っちゃんたち》を発表。地元・道後中学校の野球部員を被写体としたユーモラスな写真作品が道ゆく人々を楽しませる。本作は、今後写真集の発行を予定しているという。

大巻伸嗣、共同制作 福士裕朗(たちねぶた制作者)《Echoes 月光》の展示風景。夜間には、作品が点灯する 撮影=高見知香
石井七歩《融合しよう Let’s Fusion》の公開制作の様子。道ゆく人々の輪郭線も作品内に取り入れられる 撮影=高見知香

 約1キロ圏内に作品が密集する道後オンセナートは町歩きにもぴったりのアートフェスティバルだといえるだろう。会期中、市内各所には大巻伸嗣、石井七歩、久村卓、谷このみらの作品が登場。なお大巻は6月頃、椿をモチーフとした大型の立体作品を発表する予定だという。

鹿児島睦は銀座三越とコラボレーションした浴衣を発表

鹿児島睦が図案を手がけた《道後温泉 × 銀座三越 × 鹿児島睦のゆかた》。写真右が鹿児島 撮影=高見知香

 陶芸家・アーティストの鹿児島睦(まこと)は銀座三越とコラボレーション。道後温泉と銀座の街から着想を得た図案を描き下ろし、伝統的な染色技法を用いたオリジナル浴衣を発表した。「くれなゐの」「柳おどり」「銀座菱」と題された3種の浴衣は、5月16日から道後温泉の旅館・ホテルで貸し出しが行われる。世代を問わず様々な着こなしのできるこの浴衣を着て、各会場を巡りたい。

グランドオープン式典の様子。大量のシャボン玉は、大巻伸嗣の作品《Memorial Rebirth》の一部。ジンタらムータによる演奏も行われた 撮影=高見知香

 アートフェスティバルとしては比較的長期間にわたって開催され、昼も夜も楽しめる「道後オンセナート」。歩いてみれば、町のあちこちに歴史の面影が見える道後はアート以外にも、思いがけない発見がある場所だろう。このフェスティバルを機に道後の町に足を運ぶことをおすすめしたい。