エッシャーと向き合う。
「ミラクル エッシャー展」に日本初公開の版画150点が集結
全出品作が日本初公開ということで開催前から大きな注目を集めてきた「生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展」がついに6月6日より、東京・上野の森美術館で開幕する。その見どころとは?
「だまし絵(トロンプ・ルイユ)」で知られるマウリッツ・コルネリス・エッシャー(1898〜1972)。現実には存在しえない建造物などを描いた作品は、誰しもが一度は目にしたことがあるのではないだろうか? そんなエッシャーの代表作が一堂に来日する展覧会「生誕120年 イスラエル博物館所蔵 ミラクル エッシャー展」が、上野の森美術館で開幕する。
本展では、世界最大級のエッシャー・コレクションを誇るイスラエル博物館の所蔵品が初来日。同館は、エッシャーの作品330点を所蔵しており、これらの作品は、通常作品保全の理由から常設展示されていない。本展は、そのコレクションから152点が来日する貴重な機会だ。
大きな錯視像を画面中につくりだした《バルコニー》(1954)や、水が水路を上っていくように見せる《滝》(1961)など、「エッシャーといえばこれ」と言える代表作に加え、初期の作品や直筆のドローイングなど、エッシャーの活動を初期から晩年までたどる本展。 会場は「エッシャーと『科学』」「エッシャーと『聖書』」「エッシャーと『風景』」「エッシャーと『人物』」「エッシャーと『広告』」「エッシャーと『技法』」「エッシャーと『反射』」「エッシャーと『錯視』」の8章と、エピローグ「循環する世界」で構成。それぞれの観点からエッシャーの作品を読み解く構造となっている
なかでもハイライトとなるのが、会場の最後を飾る、《メタモルフォーゼII》(1939-40)だ。幅4メートルにも及ぶ横長の本作は、「METAMORPHOSE」という文字から始まり、抽象的なかたち、蜂、魚、鳥、建築物、チェス、そしてまた「METAMORPHOSE」という文字へとモチーフが変容していくもの。本展では、エッシャー自身によって刷られた貴重な初版が展示されている。
この作品について、本展監修を務める東京藝術大学大学美術館准教授・熊澤弘は「エッシャーのエッセンスが端的に現れており、バックグラウンドを色濃く反映している作品」だと語る。エッシャーは1924年の結婚後、ローマを拠点に作品を制作していた時期があった。しかし、イタリアでファシズムが隆盛を見せると、それに抵抗するように36年には同地を離れ、フランス、そしてスペインへと船旅に出る。その道中、スペインのアルハンブラ宮殿を訪れたエッシャーは、建物の幾何学的なタイル模様に影響を受け、平面を同じ図形で埋めていく「正則分割」を作品に取り込んでいく。《メタモルフォーゼII》はまさにこの正則分割の賜物であり、ダイナミックなモチーフの変容は、観るものを飽きさせない。
「だまし絵」の巨匠として知られながら、決してその一言では語り尽くせないエッシャー。その緻密な作品世界と向き合ってみてはいかがだろうか。なお、本展は東京展を皮切りに、大阪、福岡、愛媛を巡回する。