北緯38度線から豊かな自然を見つめて。「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」展が原美術館で開幕
韓国出身のアーティスト、崔在銀(チェ・ジェウン)による「Dreaming of Earth Project(大地の夢プロジェクト)」の構想を可視化する展覧会「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」が、原美術館で開幕した。
韓国のアーティスト、崔在銀(チェ・ジェウン)の発案・構成による展覧会「The Nature Rules 自然国家:Dreaming of Earth Project」が、原美術館でスタートした。
「Dreaming of Earth Project(大地の夢プロジェクト)」の舞台は、朝鮮半島における停戦ライン=北緯38度線から、南北2キロメートルずつにわたる帯状のエリア「非武装地帯(DMZ)」だ。ジェウンは1953年の休戦後、約65年にわたって人が立ち入ることのなかった同エリアに生まれた豊かな自然に注目。その生態系を守り後世に残すため、2014年にプロジェクトを立ち上げた。
現在南北関係は良好で、新たな開発も考えられているというDMZ。出展作家のスン・ヒョサンやチョウ・ミンスクは、商業的な開発や、それに伴う緊張関係に対する危惧も感じるという。本展では現在進行系で進むDMZとそれを取り巻く問題のなかで、アーティストや建築家、科学者の英知を集め、作品を通して平和について思索する。
美術館に入ってすぐの中庭を飾るのは、李禹煥(リ・ウーファン)による《透明茶房》。そしてギャラリー1には、インドの建築事務所「スタジオ ムンバイ」が手がける《Tazia》が展示されている。同作は職人の手によって細い竹と糸のみでつくられた記念碑で、実際に中に入ることができる。
続くギャラリー2でひときわ目を引くのは、ジェウンによる《hatred melts like snow》。同作は、かつてDMZ敷設されていた鉄条網を融かし、人が行き来できる鉄の板につくり変えたもの。ぜひその上を歩いて、人々を分断する「境界」のあり方について思いを巡らせてみてほしい。
2階のギャラリー3には、渡り鳥が羽を休める塔のプラン《鳥の修道院》が展示。同作を手がけた建築家のスン・ヒョサンは本展について、「参加している方々が使っているのは、いつかは朽ちて自然と同化する素材です。物質は消えてしまうけれど、土地や人のなかに記憶が残るという点が重要だと感じました」と語る。
また、隣の部屋に展示されるのは、同じく建築家のチョウ・ミンスクによる《DMZ 生命と知識の地下貯蔵庫》。北緯38度線と交差するように伸びるトンネルの北側から「知識の貯蔵庫」を、南側から「シード(種)の貯蔵庫」を建設するプランを具体的に示した作品だ。
そして本展の最後を飾るのは、ジェウンによる《To Call by Name》だ。大きな鏡に並べられた白磁に刻まれているのは、DMZに生育する101種の絶滅危惧種の名前。その上には、小さな種が浮かんでいる。同作についてジェウンは「まずは真っさらな心で、名前を覚えてみることから始めようと考えました。上の瓶には4日前に小豆を入れて、もう根が生えてきています。種や生命は、この展覧会の一番重要なポイントです」と語っている。
そのほかにも本展では、朝鮮戦争やDMZに関する資料が展示。また会場のいたるところで、平野啓一郎やギムホンソックらによる詩の朗読の音声を聞くことができる。美術館の空間や周囲の環境と調和するような作品の数々は、未来の「平和」のあり方を想像するための助けとなることだろう。