女性写真家の草分け・山沢栄子が見せる抽象写真。東京都写真美術館で「山沢栄子 私の現代」が開幕
日本における女性写真家のパイオニアである山沢栄子。その生誕120年を記念した展覧会「山沢栄子 私の現代」が、恵比寿の東京都写真美術館で開幕した。
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日本における女性写真家の草分けである山沢栄子(1889~1995)。その生誕120年を記念した展覧会「山沢栄子 私の現代」が、恵比寿の東京都写真美術館で始まった。本展は、西宮市大谷記念美術館からの巡回となる。
山沢栄子は1889年、大阪の比較的裕福な家庭に生まれた。小さい頃から絵画に親しみ、写真にも興味を持っていたという山沢。1916年に女子美術学校日本画科専科に入学し、油絵も独学で学んだ。その後26年には単身アメリカ・サンフランシスコへと渡り、29年まで滞在。このアメリカ滞在が、写真家・山沢栄子誕生のきっかけとなった。
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当初、静物画を学ぶためにカリフォルニア・スクール・オブ・ファインアーツに入学した山沢だったが、父の逝去にともない、生活費と学費を稼ぐために写真家コンソエロ・カナガの助手の職を得る。そこで写真のおもしろさに目覚めた山沢は絵画の道を断ち、写真家としての道を歩んでいく。
本展では、山沢の作品のなかでも重要な位置を占める70~80年代の作品約140点を展示。会場は4章構成だが、ここでは商業写真から抽象写真への変遷をたどる前半(1〜2章)にとくに注目したい。
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本展の大きな特徴は、ハイライトがその冒頭に来ることだ。第1章「私の現代」では、山沢の仕事の集大成とも言える「What I Am Doing」シリーズ28点が展示される。
「What I Am Doing」は、カラーとモノクロによる抽象写真のシリーズ。写真による造形の実験を重ねた山沢は「抽象(アブストラクト)写真」に行き着き、自身の過去作品や写真機材など、身近な素材をモチーフとして構築的な画面をつくり出した。学芸員・鈴木佳子はその制作背景について、「小さいスペースで制作できるという物理的な理由と、対象に集中するという姿勢が垣間見える」と語る。
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「山沢のビジョン」とも言うべき「What I Am Doing」シリーズを提示する第1章に続く第2章では、時間を遡り、62年に出版された写真集『遠近』が紹介される。
『遠近』は、1943~62年の間に制作された作品77点を収録した写真集。本展では同書をバラし、全ページを展示。19年という時間のなかで、抽象へと向かう山沢の表現の変化を垣間見ることができる。
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なかでも注目したいのが、1955年の写真群だ。同年、山沢はカナガの招待で渡米し、ニューヨークに半年間滞在する。それまでポートレート中心の商業写真家として活動していた山沢だが、このアメリカ再訪が、商業写真家からアーティストへと方向性を変えるきっかけとなった。そこには、当時アメリカで活動していた抽象画家たちと出会ったことが影響しているのではないかと考えられている。
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後半となる第3章ではTOPコレクションから、20世紀前半のアメリカ写真を展示。アルフレッド・スティーグリッツをはじめとする写真家たちの名作を並べることで、アメリカ写真史と山沢を接続する試みが見られる。
絵画的アプローチと写真というメディアを使い、独自の世界を切り開いた山沢。しかしそこには「まだわからない部分が沢山ある」という。本展は、このパイオニアに再び光を当て、さらなる研究を促す契機となるだろう。
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