明治神宮の「神宮の杜芸術祝祭」。名和晃平、船井美佐、松山智一、三沢厚彦が参加する野外彫刻展が開幕
創建100年を迎える明治神宮が、2020年に明治神宮(内苑・外苑)で様々な展覧会やイベントを開催する「神宮の杜芸術祝祭」が開幕した。そのメインイベントのひとつとなる屋外彫刻展「天空海闊(てんくうかいかつ)」では、明治神宮の広大な人工林「神宮の社」を舞台に、名和晃平、船井美佐、松山智一、三沢厚彦が彫刻を展示する。彫刻展の会期は2020年3月20日〜12月13日。
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2020年に創建100年を迎える明治神宮で、3月20日より「神宮の杜芸術祝祭」が開幕。そのイベントのひとつ、野外彫刻展「天空海闊(てんくうかいかつ)」では、名和晃平、船井美佐、松山智一、三沢厚彦が彫刻を展示する。
展示の舞台となる明治神宮の杜は、100年前の創建時に整備された70万平米の人工林。この広大な森林を舞台に、アーティスト4人が作品を制作・展示する。
本展のアーティスティック・ディレクターを務める山口裕美は、展示の狙いと参加アーティストについてこう語る。「日本が世界に誇るアーティスト4人を集めた。日本の哲学的背景として神道の価値観とアーティストの気持ちとをつなげた。神社という現代美術とは結びつきにくい場所に作品を展示することで、多くの人が驚き、誰かに伝えたくなるような展示を実現できた」。
展示作品はすべて、明治神宮内の神宮の杜に設置されている。まず、多くの人が利用するJR原宿駅に近い南参道鳥居から境内に入り、参道を歩くと見えてくるのが松山智一《Wheels of Fortune》(2020)。溶接したステンレスを研磨して鏡面状に仕上げた本作は、鹿の角と車のホイールとうふたつのモチーフを組み合わせた作品だ。
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松山は本作についてこう述べる。「神の遣いともされる鹿と、神道と関わりが深い銅鏡に見立てた車のホイール、その有機的なフォルムと人為的なフォルムを組み合わせてコントラストをつくり出した。鏡面に映り込む荘厳な森と、人工物とのコントラストにも注目してほしい。アートと社会との接続を、明治神宮が象徴するような日本の近代化といった要素も加味しながら表現した」。
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境内をさらに進むと、昨年10月にオープンした明治神宮ミュージアムに向かう道の横に名和晃平《White Deer(Meiji Jingu)》(2020)が姿を現す。これまで、瀬戸内海の犬島や、宮城・石巻の牡鹿半島で展示されてきたシリーズの最新作だが、色調はこれまでと異なる、神秘的なホワイトパールで仕上げたという。
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名和は本作を、「過疎化の進む犬島や、東日本大震災で被害を受けた石巻といった、日本の現状の様々な側面が現れた土地を経由し、それらをつなぎながら明治神宮で空を見上げる力強い鹿だ」と解説。そのうえで、作品に込めた思いを以下のように述べた。「世界全体が不安であったり、苦しんだりしている現在の状況がある。しかし、そんな時に立ち止まり、考えながら改めて前向きな気持になれるような、良い『気』を運んでくれる鹿になったらと思っている」。
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代々木口から本殿に向かう北参道の途中に設置されているのが、三沢厚彦《Animal2012-01B》(2012/2019)だ。木彫による原型の質感を生かしながら制作されたブロンズ製の白い虎が、散策路から森に少し入ったところに佇む。
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作品が設置されたのは、三沢が木彫の素材として使用する木と同種の、クスノキの下。三沢は、穏やかで豊かな森のこの一角に、とくに大きな魅力を感じたという。三沢は作品を森のなかに設置することの魅力をこう語る。「作品制作のときは、いつも場所と作品をシンクロさせるようにつくっている。原型となった木と、森の木との関係はもちろん、例えば歩きながら作品を見ていると、周囲の木々との関係性で見え方が様々に変化する。設置して改めて見ても、とてもよく場所に馴染んでいるように感じている」。
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社殿の奥、宝物殿の入口にむかう道の近くにあるのが船井美佐《Paradise/Boundary-SHINME》(2020)。木々を映す鏡面仕上げの二対の立体作品は、森と一体化しているかのような印象を与える。
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本作のモチーフとなっているのは馬だ。馬というモチーフに込めた思いを、船井は以下のように述べる。「明治神宮は、日本の近代化の象徴的な場所。現代の日本の絵画や芸術を考えるとき、この国の近代化の問題に必ず触れることになる。神社に奉納する神馬と明治天皇の愛馬金華山号をモチーフに、東洋絵画の様式である絵馬と、西洋絵画に描かれる躍動する馬を対にした。現れたり消えたりする想像上の馬を通してこの100年の森を見ることで、様々な未来を想像してほしい」。
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作品点数は少ないながらも、いずれの作品も天候や時間、季節によって様々に表情を変えるように展示されている。国内外より多くの人々が訪れる明治神宮で、作品がどのような拡がりを見せるのか、ぜひその目で確かめてほしい。