6体のミイラをCTスキャンで解析。古代エジプト人の生き様を知る「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」が開幕
大英博物館が所蔵する6体のミイラとともに、CTスキャンによる解析内容を展示し、古代エジプト人の生き様や文化を紹介する「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」が国立科学博物館で開幕。そのハイライトをレポートする。
古代エジプト文明の研究で世界を牽引してきた大英博物館。同館が所蔵する6体のミイラとともに、CTスキャンを用いた画像解析により古代エジプト人の生き様や文化が紹介する展覧会「大英博物館ミイラ展 古代エジプト6つの物語」が、東京・上野の国立科学博物館で開幕した。会期は2022年1月12日まで。
今回来日したのは、紀元前800年ごろから後100年ごろにかけて、古代エジプトの各時代を生きた、役職も死亡年齢も異なる6体のミイラだ。各個をCTスキャンすることで見えてきた研究結果を紹介し、古代の生活様式を明らかにするとともに、関連する埋蔵品や発掘された資料もともに展示する。そのハイライトをレポートしたい。
最初に展示されるミイラは古代エジプトの都市であるテーベの役人・アメンイリイレトのものだ。前600年ごろの末期王朝時代のもので、棺に記された銘文からアメンイルディス(1世)という女性の所領の役人であったことがわかっている。アメンイリイレトはアメンイルディスの死から1世紀以上後の時代に、その遺産である豊かな所領を管理していた。
会場ではアメンイリイレトの地位の高さを示す3重の木棺とミイラ本体を展示。CTスキャンによって、ミイラづくりの際に使われた防腐処理や乾燥処理の技法が明らかになっており、この時代のミイラ制作の技術の高さをうかがわせる。
ほかにも、古代エジプトの葬送にまつわる信仰をいまに伝える『死者の書』や、内蔵を納めるカノポス壺、ミイラづくりや葬祭の道具などがともに展示されている。
次に展示されるネスペルエンネブウは、大英博物館のなかでもとくに研究されてきたミイラのひとつだ。銘文からはテーベでもっとも重要な宗教施設であるカルナク神殿の神官で、前800年ごろを生きたことがわかっている。
ネスペルエンネブウのミイラのCTスキャンからは、数多くの護符や装身具が包帯のなかに配置されていることや、それらの種類・材料も明らかになったこれらは死者を保護し、永遠の命を得る手助けをすると信じられており、会場ではCTスキャンで見つかった護符と同系のものや、神官たちが仕えた古代エジプトの神々の像などが展示される。
ペンアメンネブネスウトタウイもまた神官で、前700年ごろの人物だ。その遺体は慎重にミイラ化されたものの、CTスキャンによって脳は取り除かれていないことがわかっている。時期や地域によってミイラづくりの技術や変化し、ミイラ職人たちが独自の手法を開発していたことをうかがわせる。
ペンアメンネブネスウトタウイの骨格はほぼ生前のままの状態で残っており、生物学上の貴重な情報源だ。歯の虫歯の状態も知ることができ、生前に糖質を多く含む食事や飲み物を口にしていたと考えられている。
ミイラのほかにも古代エジプトの医学や食をつたえる資料として、ミイラとともに医学をつかさどる神々の像や、パン、ビール、ワインを展示されており、当時の医療への考え方や食生活を知ることができる。
タケネメトは今回の展覧会では唯一の女性のミイラだ。父は神殿の出入りを管理する門番、母は神官を務めた裕福な家の既婚女性であることがわかっている。
古代エジプト人女性の副葬品には、化粧品や香油、香水が含まれていることが多く、来世の生活においても化粧と装身が必要とされていたことがわかる。会場ではタケネメトのミイラとともに、アイライナーとして使われていた「コホル」の壺や塗るための棒、化粧箱や襟や首の飾り、バングルなどが展示されている。
また、今回の展覧会では子供のミイラも来日した。ファイユーム地方のハワラで出土したこのミイラは、CTスキャンによる骨格と歯の発育程度から、3〜5歳の幼児だと推定されている。ローマ支配時代の後40〜55年ごろのものであるこのミイラは、社会的地位の高い家族の一員だったと考えらており、頭部に肖像画が描かれている。
子供のミイラとともに古代エジプトの子供たちが遊んだ玩具や身につけた装身具、子供の魔除けなども展示されており、死亡率が高い時代だからこそ、その成長を真摯に祈った人々の姿が浮かび上がってくる。
最後は、グレコ・ローマン時代の若い男性のミイラが展示される。多くのギリシャ人がエジプトに渡来して定住したこの時代も、エジプト土着の埋葬の伝統は廃れることはなかった。CTスキャンでこの男性の頭部の奥に大きな木片があることがわかっており、ミイラ職人が脳を取り出すときにつかった道具の一部が残った貴重な資料となっている。
このミイラにはエジプトの伝統的なマスクがあしらわれているものの、先の子供のミイラのようにプトレマイオス朝の末期に近づくにつれ、マスクの代わりに写実的な肖像画を描く時代が訪れる。会場ではこの移行期のマスクや肖像画も見ることができ、埋葬様式の変遷を感じられる。
本展ではさらに、第2会場として日本独自の特別展示も実施。日本とエジプトが合同で行っているサッカラ遺跡の調査の紹介を中心に、日本人が古代エジプトの存在をどのように知り、研究を続けてきたのかを資料や遺跡の再現で追うことができる。また、国立科学博物館が所蔵する猫のミイラが初公開されており、その匂いを再現した体験展示も行われているのでこちらも見逃せない。
古代エジプトのミイラとCTスキャンによる研究結果を通して、当時の人々の生活に肉薄する意欲的な展覧会となっている。