異なる特性を持つ3ギャラリーが入居。馬喰町の新アート複合施設「まるかビル」が目指すものとは?
現代美術、デジタル・アート、オルタナティブという3つの異なる特性を持つギャラリーが集積するアート複合施設「まるかビル」が、4月2日に東京・馬喰町にオープンした。この施設が目指すものとは?
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東京・馬喰町にあった、そば処「まるか」として地元に愛された築70年の「まるかビル」が、4月より新たなアート複合施設として生まれ変わった。
本施設は、1階を駐車場、2階〜4階を3つのギャラリーに全面改装。現代美術ギャラリー「PARCEL」の2つ目の拠点となる「parcel(パーセル)」、デジタル/NFTアートをフィジカルで体験できる「NEORT++(ネオルトツー)」、アーティストとともに都市文化におけるオルタナティブを再考するプロジェクトスペース「CON_(コン)」といった、現代美術、デジタル・アート、オルタナティブの3つの異なる特性を持つギャラリーが各階に入居している。
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2階のparcelでは、抽象的な作風で知られている作家・安野谷昌穂の2年ぶりの個展「Earth Song, Birth Gong」を開催。安野谷は、ペインティング、ドローイング、コラージュ、パフォーマンス、写真など、多様な手法を用いて作品を制作する。本展では、コロナ以降に制作された作品を中心に展示している。
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展覧会タイトルにあるように、地(地球、地面、地上)、生(エネルギー、死、命)のイメージが作品に表出。パネル作品は、パネルの上に石灰を盛り、削る、描く、重ねる、という行為が何層にも繰り返されて制作。土を耕し作物を育てる、もしくは子供が枝で地面を掘り返して遊ぶような感覚を思い出す。キャンバス作品では、空気を内包し、音のような何かに色をつけるようにして、アクリル・油彩などが優しく複層的に重ねられている。
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3階のNEORT++では、Ayumu Nagamatsu、避雷、NEORTによる、展示期中のみ鑑賞できるNFTアートが展示。NEORTは、メディアアーティスト・NIINOMIによって2019年にオンラインでオープンされたデジタルアートのプラットフォーム。今回のNEORT++は、デジタルアートを展示するための初めての実空間となる。
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本展では、桜をテーマにしたデジタルアート作品《MOMENT》が展示。桜の花は1000エディションのNFTとして販売されており、NFTが販売されるたびにデジタルの花は桜の木に咲く。すべてのNFTが販売されると、桜の木は満開を迎えるという。
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4階のCON_では、GILLOCHINDOX☆GILLOCHINDAE、Youfire、山本和真といった、23歳以下の若手アーティスト3人による展覧会「極薄inframince」が開催。「inframince」とは、マルセル・デュシャンによる造語で、「極薄」や「超薄」としても訳される。本展は、それぞれ都市や既製品、遊戯をモチーフに作品を制作する3人が「極薄」の美学を探求するものだ。
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本施設の監修・運営に関わるPARCELのディレクター・佐藤拓は、「新しい何かが生まれるかもしれないという状況をつくろうというのが、このプロジェクトの主な目的だ」と話す。
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東京には、六本木に大手ギャラリーが入居するピラミデビルやcomplex665、2020年にオープンしたANB Tokyo、天王洲に日本最大級のギャラリーコンプレックス・TERRADA ART COMPLEXⅠ&Ⅱなどのアートコンプレックスが存在している。
こうした状況のなか、佐藤は「それぞれではコミュニティがちゃんと形成しているが、なかなかミックスされている場所がない。まったく異なる視点から運営している3つのスペースをとりあえず入れて、ひとつとして運営することによって良くも悪くも何かしらが起きるのではないか」と語っている。今後は、全館を通して企画を行うことや、テナントが入れ替わることなども起きる可能性があるとしている。
これまでギャラリーが個別に点のように存在していた馬喰町エリア。異なる特性やコミュニティを持つギャラリーが集積する施設の誕生により、どのようなインパクトがもたらされるのか。まるかビルの今後にも注目したい。