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2022.7.16

名作椅子から住宅まで。東京都現代美術館でジャン・プルーヴェの仕事の全貌に迫る

1990年代以降再評価の機運が高まり、国内外で高い人気を誇るジャン・プルーヴェ(1901〜1984)。その大規模な展覧会「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」が東京都現代美術館で開幕した。

展示風景より (c) ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924
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 20世紀の建築や工業デザインに大きな影響を与えたフランスの建築家/デザイナー、ジャン・プルーヴェ(1901〜1984)。その生涯の仕事を紹介する大規模な展覧会「ジャン・プルーヴェ展 椅子から建築まで」が東京都現代美術館でスタートした。

 本展は、20世紀の建築家による家具を扱うフランスのギャラリー・パトリック・セガンと、アメリカ・カリフォルニア州を拠点に活動するアートディレクターの八木保が共同で企画したもの。主に両者の所蔵作品に加え、現代芸術振興財団の会長である前澤友作やプルーヴェ家の所蔵作品により、オリジナルの家具や建築物およそ120点を、図面やスケッチなどの資料とともに展示している。

展示風景より

 7月15日に東京都現代美術館で行われたプレスレクチャーでは、セガン、八木、前澤が登壇し、プルーヴェの作品の魅力について話した。

 30年以上にわたりプルーヴェの作品に情熱を持ち、熱心的に紹介してきたセガンは、「プルーヴェは、先見性にあふれ、非常に構築的な天才だ。家具や建築の分野において、非常に創造性やグローバルなビジョンを持ち、社会面、環境面、あるいは政治的な参加といった分野において、あらゆる力を発揮した」と評価している。

第1章「工芸から工業へ」の展示風景より、中央は《「ゲリドン・カフェテリア」組立式テーブル》。右は《「カフェテリア」チェア No.300》(いずれも1950)
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924

 会場は7章構成。前半の「工芸から工業へ」「椅子」「出版物」「ナンシーの自邸」などでは、《「サントラル」テーブル》(1956)、《ファサード・パネル》(1950頃)、《ライン照明》(1954)などの象徴的な作品や、《「プレジダンス」デスク No.201》(1955頃)、《移動式脚立(特注)》(1951)、工業生産化への移行における標石のひとつとなった《引き出し付き折りたたみテーブル》(1943)などの代表作が紹介されている。

 とくに第2章「椅子」では、「スタンダードチェア」として知られる最初期の椅子モデルをはじめ、環境や資材の変化にあわせて改良が繰り返された数々のモデルがまとめて展示されており、その変遷を体感することができる。

第1章「工芸から工業へ」の展示風景より、壁面は《「シテ」本棚》(1932)。手前は《「S.A.M.」テーブル No.506》(1951)《「メトロポール」チェア No.305(4脚)》(1950頃)
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924

 本展のために数多くの作品を貸し出した前澤は、プルーヴェの作品の魅力に「あっという間に魅了され、短期間(7〜8年)のうちに、たくさんの作品を世界中の至るところから集めた」とし、最初にコレクションしたのがこの「スタンダードチェア」だったという。

 「最初に『スタンダードチェア』を見たときに僕が感じたのは、こんなにシンプルで凛とした佇まいなどが美しいということ。そして、実用的であり、堅牢性にも優れている」(前澤)。

 展覧会の後半では、みずからを「構築家」(constructeur)と位置づけたプルーヴェの建築物へのアプローチに注目。本展のクライマックスとも言える第7章「組立・解体可能な建築と建築部材」では、章のタイトルが示すように現存する3つの組立・解体可能な建築作品の再現、または作品の部材が展示されている。

第7章「組立・解体可能な建築と建築部材」の展示風景より、《「メトロポール」住宅(プロトタイプ、部分)》(1949)
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924

 最初に展示された《「メトロポール」住宅(プロトタイプ)》は「ポルティーク」と呼ばれる構造体とファサードを別々に展開することで、構造の特徴が強化されている。地下2階のアトリウムの壁面に展示された《6x6組立式住宅》は、東フランスの難民のための一時的な住居として1944年に設計されたものだ。

第7章「組立・解体可能な建築と建築部材」の展示風景より、《「メトロポール」住宅(プロトタイプ、部分)》(1949)
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924

 アトリウムの中心部に建てられた《F 8x8 BCC組立式住宅》は、プルーヴェとピエール・ジャンヌレが第二次世界大戦中の極限状態で協働して設計・建設したもので、彼らの並外れた適応能力と近代化への探求を表す作例とも言える。

第7章「組立・解体可能な建築と建築部材」の展示風景より、《F 8x8 BCC組立式住宅》(1942)
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924

 解体可能で簡単に組み立てられることは、これらの作品の大きな特徴。セガンによれば、《「メトロポール」住宅(プロトタイプ)》と《F 8x8 BCC組立式住宅》はともにわずか1日で分解され、前者は1日で、後者は2日で組み立てられたという。フランスの戦後復興にあたり、「3つのトラックで3つのチームが駆けつければ、1日で3つの家がつくれ、それぞれの家族が家を持つこと」が重要だったのだ。

第7章「組立・解体可能な建築と建築部材」の展示風景より、《F 8x8 BCC組立式住宅》(1942)
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2022 C3924

 1930年代から新たな素材を導入して長年開発と改良を重ねた数々の椅子をデザインし、またより多くの人々が快適に過ごせるため、革新的な住宅を次々と生み出していったプルーヴェ。セガンは、「こうしてプルーヴェの作品に光が当たることをとても嬉しく思う。今回の展覧会は、見て非常に楽しめる、皆さんにプルーヴェの仕事を知っていただけるものだ」としつつ、次のように話している。

 「プルーヴェは、日本の文化や芸術に様々な共鳴をしている。彼の作品や哲学が日本において、皆さんに見ていただけたけることを嬉しく思っている」。