明治の世で琳派を継承した神坂雪佳とは。パナソニック汐留美術館で琳派の名品と探る
明治から昭和にかけて京都を中心に活動した図案家・画家、神坂雪佳。琳派に傾倒し、その意匠を当時の生活のなかに取り入れた雪佳の仕事を、琳派の名品とともにたどる展覧会「つながる琳派スピリット 神坂雪佳」がパナソニック汐留美術館で開幕した。
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明治から昭和にかけ、京都を中心に活動した図案家・画家、神坂雪佳(かみさか・せっか 、1866〜1942)。琳派に強く影響を受けたその活動を、琳派の名品とともにたどる展覧会「つながる琳派スピリット 神坂雪佳」が、パナソニック汐留美術館で開幕した。会期は12月18日まで、担当学芸員は川北裕子。
神坂雪佳は1866年京都出身。81年に四条派の日本画家・鈴木瑞彦に師事し、20代半ばで帝室技芸員の岸光景のもとで工芸図案を学んだ。京都を舞台に図案家として頭角を表すと同時に、世界の潮流であるアール・ヌーヴォーについても渡欧して視察。帰国後はより一層、装飾芸術の先端として琳派の研究に励んだ。
琳派を彷彿とさせる絵画や調度品の制作のほか、実用を意識した図案集の刊行や後進の育成、図案研究団体「佳美会」の結成など、幅広く活躍。近年は琳派研究のなかで再評価が進むとともに、海外を含めた日本美術愛好家のあいだで高い人気を博している。
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本展は雪佳の多様な仕事を紹介するとともに、京都・細見美術館監修のもと、歴代の琳派の優品を展示。絵画・図案集・工芸品など約80点を展示し、受け継がれてきた琳派の系譜を4つの章で通覧する。なお、会期中は展示替えが行われるので、展示作品は本レビューで紹介した限りではない。
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第1章「あこがれの琳派」では、雪佳の理想とした歴代琳派の作品を展示。名だたる画家たちの作品群を間近で見ることができる、本展の大きな魅力となっている。
琳派の祖といえる、平安の王朝美を江戸初期に蘇らせようとした本阿弥光悦や俵屋宗達。本展では光悦が筆を、宗達が下絵を手がけた《月梅下絵和歌書扇面》や、宗達の《歌仙図色紙「藤原仲文」》《双犬図》(いずれも江戸時代前期)などを展示する。
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江戸中期には光悦や宗達の思想を受け継いで、尾形光琳やその弟の乾山が活躍する。しなやかな柳の枝が構図の美しさを際立たせる光琳の《柳図香包》や、教養の深さを伺わせる中国の赤絵を写した乾山の《唐子図筆筒》(ともに江戸時代中期)などに注目したい。
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江戸中期から後期にかけては、深江芦舟、渡辺始興、中村芳中といった琳派に連なる絵師たちによって、個性的な作品が育まれた。
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光琳の有力な弟子とみられている「成乙」印を用いた絵師による《秋草図団扇》(江戸時代中期)は、光琳の影響が見られる円形画面の効果的な使用が目を惹く逸品。また、芦舟の《若松に鶴図手焙》(江戸時代中期)は、琳派らしい明快な色彩の絵付が鮮烈だ。
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また、大きく口を開いた鳥の姿がユーモラスな、芳中の《白梅小禽図屛風》(江戸時代後期)は、雪佳が所蔵していたものだという。同様に《月に萩鹿図》(江戸後期)や『光琳図譜』(1802)の図には、芳中らしい愛嬌のある図柄で動物たちが描かれている。
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そして江戸後期、京都で誕生した琳派は江戸で変容を遂げ、酒井抱一や鈴木其一らによって、独自の境地に至る。酒井抱一の《槇に秋草図屛風》(江戸後期)は光琳の写しとして知られるが、抱一は花の数を減らし、視点を低くするなど余白を活かした構成に仕上げている。
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また、抱一の弟子である其一は、光悦の孫・本阿弥光甫の作品に想を得て藤を描いた。こちらも細い蔦で画面に動きを与え、花弁もより繊細に描くなど、江戸琳派らしい装飾的な植物の解釈が取り入れられている。
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第1章で琳派の名だたる作家たちの作品を紹介したあとは、第2章「美しい図案集─図案家・雪佳の著作」で、雪佳の仕事に目を向けたい。
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琳派の芸術に強い関心を寄せた雪佳は、これを手本に暮らしを彩るデザインを生み出した。本章では図案家として実用性の高い意匠を生み出した雪佳の仕事を図案集が中心に紹介されている。
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第3章「生活を彩る─雪佳デザインの広がり」では、雪佳が琳派から着想した意匠を、調度品や器といった生活のなかの道具へと取り入れた品々が並ぶ。
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琳派が好んだモチーフである松の図様を描いた広蓋、雌日芝を重ねて描いた瓶掛、光琳の《紅白梅図屏風》に見られるような水の文様を形状に取りれた皿など、いずれも雪佳の琳派に対する解釈の豊かさを感じることができる。
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そして第4章「琳派を描く─雪佳の絵画作品」では、図案や意匠のみならず、絵画においても活躍した雪佳の作品を見ることができる。
《四季草花図屛風》(大正末〜昭和初期)は、琳派が繰り返し描いてきた草花図の系譜に連なるが、右から左へと季節が移り変わるのではなく、構図を優先した配置がなされている。図案家としての雪佳のこだわりによって、琳派のモチーフに新たなアレンジを加えたものといえる。
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《杜若図屛風》(大正末〜昭和初期)は、誰もが知る光琳の《燕子花図屛風》を意識したもの。白花を描いてアクセントをつけたり、杜若を直線的に並べたりと、本作でも雪佳の巧みなアレンジが見て取れる。
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そして《四季草花図》(大正期)は雪佳が琳派が得意とした四季草花に正面から挑んだといえる作品。たらし込みや用いながらも、適宜デフォルメをして仕上げた、瀟洒な作品だ。
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琳派という日本美術の最高峰といえる集団を、卓越した感性で生活のなかに落とし込んだ雪佳。琳派の名品とともに、その発想の根源から展開までを知ることができる展覧会だ。
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