干渉し融けあうリアルとバーチャル。ICCで見る私たちの「リアリティ」の行方
NTTインターコミュニケーション・センター [ICC]ギャラリーAで、企画展「多層世界とリアリティのよりどころ」が開催中。「多層世界」シリーズの3回目となる本展では、リアルとバーチャルが共存する多層世界における私たちのリアリティのあり方について、7組のアーティストの作品を通して問いかけている。会期は3月5日まで。
NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]で、企画展「多層世界とリアリティのよりどころ」が開催されている。本展は、2020年度から始まったオンライン・プラットフォームを活用した展覧会「多層世界」シリーズの第3弾にあたる。会期は3月5日まで。
「多層世界」シリーズとしてはこれまで、第1回「多層世界の中のもうひとつのミュージアム」(2021)、第2回「多層世界の歩き方」(2022)を開催。外出制限を要請される社会において、意識・感覚の変容を考察するメディア・アートを紹介してきた。
今回の展示では、リアルとバーチャルが相互に影響する現在における「リアリティ」のあり方に焦点を当て、7組のアーティストの表現を展覧。ICCにおけるリアル展示に加え、一部作品はオンラインからの体験も可能となっている。
会場の扉の前では、藤原麻里菜のAR作品 《顔をハメてもその様子を誰も見ることができない顔ハメパネル》が来場者を迎える。入って正面でも、藤原の《QRコードマスク》を展示。QRコードを読み取るとマスクの下を補完する画像が表示される、体験型の作品となっている。
向かって右手のエリアも、藤原が手がけた作品群だ。《オンライン飲み会緊急脱出マシーン》、《オンラインミーティング用パーティション》、《猫を飼ってなくても会議の雰囲気を良い感じにできるマシーン》は、いずれもコロナ禍で主流となったオンライン会議に着想を得て、新しい現実をサバイブする「無駄づくり」の結晶となっている。
会場入って左手では、佐藤瞭太郎の作品を展示。「アセット」と呼ばれる既存の3Dモデルのみで構成された映像作品《Interchange》と、フリー素材の写真と「アセット」のキャラクターを組み合わせた写真作品《Dummy Life (#1–24)》は、どちらも実在する対象と仮想的なデータの間柄についての考察を促す。
そのまま手前から回るのも良いが、会場左奥の内田聖良《バーチャル供養講》 は整理券による予約制のため早めに立ち寄っておきたい。
ヘッドマウントディスプレイを装着して没入するVR空間では、家族からの土産物や贈り物、愛用していた辞書などの思い出の品々が「供養」されている。気になった供養物に近づいてテキストを読み、聞こえてくる音や声に耳を傾けて、ビビッときたものにはお花をお供えできる濃密な数分間を、ぜひ体験してほしい。体験できなかった人にも嬉しい、テイクフリーのお土産「のりしろペーパークラフト」も要チェックだ。
供養堂を出た先には、VR体験後の目にも優しい緑色。この作品は、たかはし遼平の《In game botanical》。ゲームにおける自然は、データ量を節約するためにドット絵などの簡易な表現になっていること、それが現実世界の自然と同様に「環境適応」であるという点に着目したという。
《並行植物調査プロジェクト》 にも注目。実際の自然の中に、ゲーム内のバーチャルな自然の入り込む余地を探し、「植える」というプロセスで制作された写真作品だ。ここでたかはしは、整備された公園や庭と、ゲーム世界の植栽に関連を見出している。
目が休まったところで、会場の右奥に進むと、トータル・リフューザル《How to Disappear》が展示されている。オンライン・シューティング・ゲームのプレイ映像を素材として制作されたこの作品は、「戦場から脱走してゲームを継続することは不可能」という設定を覆し、歴史上の戦争では存在しえた「脱走者の歴史」を語っている。
会場内でも目を引く、柴田まおの《Blue》は彫刻作品。その中にあるモニターの映像では、彫刻作品が何もない会場とクロマキー合成され、その形を消滅させてしまう。この映像がオンライン配信されることで、「現実の彫刻の姿は、会場に足を運ばないと見ることができない」という状況を創出し、インターネット以降の鑑賞環境について問いかけている。
会場出入口では、谷口暁彦《骰子一擲 / a throw of the dice》の展示。サイコロが落ちた風景を3Dスキャンし3Dプリントしたオブジェクトと、サイコロの運動のリアルタイム・シミュレーションで構成されている。合わせて鑑賞すると、6面がそれぞれ異なる時間と場所を保存する記憶装置としても見えてくるかもしれない。
本展の共同キュレーターでもある谷口はまた、サイコロが持つ「毎回違う転がり方をしているが、6つに収束される」という特異性についても語っていた。
本展の会場では、7組の作品が独立しながらも調和する光景を楽しめるだろう。こうした「壁で作品を区切らないで、ひとつの空間として提示する」構成を試みたのは、NOIZ(ノイズ)。プレス内覧会に出席したNOIZのメンバー・平井雅史によると、鍵は天井のライトだという。
展示エリアごとの7つに加え、誰もが集えるスペースとしての輪を加えた8つのリングライト。これがそれぞれのリズムで明滅しながら、蛍の集団同期明滅のように影響しあっている。空間に動的な要素を与えるこのライトを、平井は「生きている天井」と呼んだ。
いまこの瞬間を生きながら、確かに生きてきたこの数年間の歴史に思いを巡らせる。本展は、そうした営みから未来を志向するひとときをもたらす場としての機能を持つといえるだろう。