ガウディはいかにしてサグラダ・ファミリア聖堂をつくったのか。東京国立近代美術館でその創造の源泉をたどる
スペイン出身で、カサ・ビセンスやサグラダ・ファミリア聖堂など世界遺産に登録された建築群で知られる建築家、アントニ・ガウディ(1852〜1926)。サグラダ・ファミリア聖堂に焦点を当て、ガウディの建築思想と造形原理を読み解く展覧会「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が東京国立近代美術館で開幕した。
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スペイン・カタルーニャ地方出身で、バルセロナ市内にカサ・ビセンスやグエル公園、カサ・バッリョ、カサ・ミラ、サグラダ・ファミリア聖堂など、世界遺産に登録された建築群を残した建築家、アントニ・ガウディ(1852〜1926)。そんなガウディの建築思想と造形原理を読み解く展覧会「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が東京国立近代美術館で始まった。
ガウディの仕事を紹介する展覧会はこれまで様々なかたちで開催されてきたが、本展は、「未完の聖堂」と称されながらも、いよいよ完成の時期が視野に収まりつつあるサグラダ・ファミリア聖堂に焦点を絞ったもの。担当学芸員・鈴木勝雄(東京国立近代美術館 企画課長)は開幕前の記者会見で、「サグラダ・ファミリア聖堂をつくりながら、ガウディ自身が成長し、変化してきた過程、そしてガウディの創造の源泉を紐解きながら、それらがサグラダ・ファミリア聖堂にどのように総合されていったかという過程を本展で確認していきたい」と話している。
展覧会は、「ガウディとその時代」「ガウディの創造の源泉」「サグラダ・ファミリア聖堂の軌跡」「ガウディの遺伝子」の4章構成。学術監修は神奈川大学名誉教授・鳥居徳敏が担当している。
その構成について鈴木は次のように説明している。「最初の2章を通し、ガウディの独自の世界を築くにあたり、いかに東西様々なイメージソースを吸収し、そこから彼の独自の理論や造形性をつくりだしていったかという、その頭のなかを覗いてみる。そこで見えてきたガウディの独創性の水脈がいかにその一大プロジェクトであるサグラダ・ファミリア聖堂へとつながり、ガウディの没後、その意志を受け継ぎながら、様々な人々の創造性や創意工夫によって続いているかを考察する」。
第1章では、ガウディの学生時代の図版や大学の図書館で参照していたと思われる書籍を紹介し、ガウディが建築家としての道を歩み始めた過程をたどる。そのなかでとくに注目したいのは、若き日のガウディが記した建築論ノート(1873-79)と、1878年のパリ万博に出品した作品のスケッチだ。
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ガウディによるこのノートでは、装飾や建築の色彩、そしてキリスト教聖堂などについて論じられており、若年期のガウディの建築観をうかがい知ることができる貴重な資料だ。いっぽうの《クメーリャ革手袋店ショーケース、パリ万国博覧会のためのスケッチ》(1878)は、バルセロナで有名な革手袋店からショーケースのデザインを依頼され、ガウディが自身の名刺裏に描き留めたデザイン案。このショーケースは、パリ万博でバルセロナの資産家アウゼビ・グエルの目に留まり、その後ガウディのパトロンとなったグエルとの関係を築く機縁にもなった。
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第2章は、「歴史」「自然」「幾何学」といった3つのポイントから、ガウディ独自の建築様式の源泉とその展開をたどる。
例えば、スペインにおけるイスラム建築の歴史や伝統に関心を持ちながら、建物を大量に彩るという多彩色(ポリクロミー)の建築に取り組んだガウディは、「カサ・ビセンス」などの初期作品で斬新なタイル装飾を試みる。それは、タイル破片によって曲面を被覆するガウディの象徴的な装飾手法「破砕タイル」の表現にもつながっていく。
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また、植物や動物などから着想を得たオーガニックフォームは、ガウディの装飾パターンや家具のデザインにも応用。侵食された大地や古来より死と再生を象徴する洞窟を模した造形は、その作品のなかでも繰り返し登場している。
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いよいよ本展のクライマックスとも言える第3章に入る。ガウディは1883年、サグラダ・ファミリア聖堂が着工した翌年に二代目の建築家として就任。1926年に亡くなるまでこの聖堂の設計と建設に心血を注いだ。
鈴木学芸員によると、ガウディの制作方法には図面のみならず、膨大な数の模型によるスタディを重ねてそれに修正を加えながら、外観や内部構造を練り上げていくという特徴がある。また、初期の段階から執着していた造形である二重ラセン円柱からは、生命感にあふれ上昇していく力を感じとることができる。
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同章では、スペイン内戦時の破壊を免れたガウディによるオリジナル模型や、破壊された模型の欠損部分を補って復元した作品、そして2000年初頭、建設工事が主身廊に達していた際につくられた身廊の模型などを、アトリエの写真資料や解説映像とともに紹介。パラボラ(放物線)塔群の外観構成や、樹木のように枝分かれした柱によって「森」を表現した内部空間、動物をかたどった彫刻群、多彩色の鐘塔頂華といった独特な建築様式からは、ガウディの一貫した創作スタイルをうかがうことができる。
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ガウディの没後、スペインの内戦による中断時期を除き、サグラダ・ファミリア聖堂の建設は約90年継続して現在に至っている。今年末に福音書作家の4塔が完成見込みで、ガウディの没後100年となる2026年には、建物の中心に位置するもっとも高いイエスの塔の完成が予定されている。
第3章では、1978年以来サグラダ・ファミリア聖堂で彫刻家として従事する日本人・外尾悦郎によって制作された「降誕の正面」の彫刻群《歌う天使たち》や、「受難の正面」を飾るジョゼップ・マリア・スビラクスの彫刻群、そして2021年に完成したマリアの塔など最新の建設事情も紹介され、ガウディ以後でサグラダ・ファミリア聖堂の建設の軌跡をたどる。
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最後の第4章は、未来を創造するという観点から、ガウディ建築の現代的な意義を探るもの。世界と日本におけるガウディ研究とその作品の受容や、構造建築家・佐々木睦朗らのインタビュー映像を紹介しながら、ガウディの遺伝子が21世紀の現在にいかなるアイディアをもたらしているのかを問いかける。
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会場の最後にある映像では、ガウディによる次のような言葉が流されている。「この聖堂を完成したいとは思いません。というのも、そうすることが良いとは思わないからです。このような作品は長い時代の産物であるべきで、長ければ長いほど良いのです」。
着工から140年以上の年月を経て、ようやくその完成の時期を迎えつつあるサグラダ・ファミリア聖堂。この聖堂を手がかりに、ガウディの創造をぜひ会場で堪能してほしい。