「試着室」がアート空間に。POLA MUSEUM ANNEXで体験するインスタレーション「The Fitting Room」
ファッションブランド「SOÉJU(ソージュ)」を手掛けるモデラート株式会社が、POLA MUSEUM ANNEXで展覧会「The Fitting Room」を開始。試着室をコンセプトに、鑑賞者の想像力を刺激するインスタレーションを展開する。会期は10月29日まで。
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銀座のPOLA MUSEUM ANNEXで、ファッションブランド「SOÉJU」が主催する展覧会「The Fitting Room」が始まった。主題からファッションを連想させるものの、本展覧会は、衣服やスタイリングに焦点を当てておらず、ブランドの服も登場しない。なぜ、ファッションブランドがアートを展示するのか? モデラート株式会社 代表の市原明日香はこう答える。
「私たちのブランドは、『社会との接点における、ひとりひとりの自己表現の在り方についての悩みをどうしたら解決できるか』というところからスタートしています。それをブランドフィロソフィーとして言葉にしたのが『I like the way I am.』です。ただ、ブランドの思いを言葉でカチッと固めてしまうよりは、いろんな人にその人なりの感じ方をしてほしいということで、アートプロジェクトの開催を決めました」。
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今回の展示では、「I like the way I am.」という自己を肯定する思想を、アートで表現することを試みた。本展覧会のディレクション、制作を行ったのは、ニューヨークと東京を拠点に活動するクリエイティブスタジオ「Bangal Dawson(バンガル・ドーソン)」。代表の土田あゆみは、「ありのままで、自分らしく」という言葉をただ模範的にとらえるのではなく、本当の自分らしさに向き合うきっかけとなる作品をつくることを目指した。土田は、展示コンセプトの発想から作品の構想を深めていった経緯をこう説明する。
「ファッションに紐づく要素のなかで、『I like the way I am.』という思想を、どうしたら一番うまく表現できる可能性があるかなと考えたときに、記号的なアイコンになるのが『フィッティングルーム』なんじゃないかと。『試着室』という箱をコンセプトにすれば、そこから表現の幅も広がると思いました」。
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「試着室」という世界観を表現するために、空間全体を壁で仕切り、鑑賞者が自ら動いて、インスタレーションを体験できるような動線がつくられている。床全面に真っ青な絨毯が敷き詰められ、仄暗いライトが足元を照らす演出も印象的だ。
エントランスに入ると最初に目にするのは、ラックに並ぶ白い布で覆われた服。一見無機質に見えるが、立ち止まってみると、それぞれ異なる価値観を表すテキストが並んでいるのがわかる。クローゼットから服を選ぶように、テキストを自分に当てはめてみる。この行為自体が、これから先に始まる物語のプロローグとなる。
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コンセプトテキストが書かれた幕をくぐると、最初に鑑賞者を迎えるのは姿見だ。横の椅子の上には、展示案内が置かれているが、それは薄い不織布でできたフェイスカバーの形をしている。試着室で化粧が服に付着するのを避けるために使うものだ。青い絨毯、白い壁、姿見、フェイスカバー......いくつかの要素が鍵となり、異次元の「試着室」へと導かれる。
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奥に進むと、3つの試着室が目に入る。それぞれ白いカーテンがかかっていて意味深な佇まいだ。ひとつめの試着室は、歪曲した形の鏡がある部屋。鏡に映る自分と、頭の中にある自分のイメージとのギャップに戸惑う。しかし、本来、鏡は対象をありのままに反射するという前提に立つと、いま見ている像も現実の姿といえる。自己についてのイメージを曖昧にする演出だ。
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2番目の部屋は、何層にも重なったカーテンがある部屋。手前からカーテンをめくっていくと、一枚一枚の布の上に異なるビジュアルが現れる。自分に触れるヴェールを払うように進むと、最後にぼやけた像が描かれた布にたどり着く。布には無数の穴が空いているが、その穴から微かに見えるのは、奥の鏡に反射する不確かな自分の一部。外側の社会から、次第に内面の深い世界へと潜っていくような感覚を受ける。
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最後の部屋では映像作品《The Fitting Room》が上映される。コンセプトやストーリーは土田が練り、映像作家の林響太朗とコラボレーションし制作した。映像では架空の「試着室」を舞台に、性別や年齢、国籍も異なる4人のキャラクター、「a woman」「a man」「a student」「a clown」が登場する。
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それぞれの内面世界を表すかのように、試着室の姿も歪に変形するのが生々しい。映像内で問いかけられる「Do I fit in?」の言葉に、鑑賞者は何を思うだろうか。土田は、「The Fitting Room」は「ありのままの自分を探す場所」だと言う。だが、ありのままの自分について、答えは用意されていない。
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「ありのままでいることは、ナチュラルであるとかそういうことではなくて、本当の自分に向き合う必要があると思っていて、この映像もその気づきになるようにしています。すべてが抽象的なところから始まっていて、答えを出さない展示なので、何かしらみんなに考えてもらえればと思っています」。
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市原は「The Fitting Room」というコンセプトを聞いたとき、今回の企画がこのためにあったと思えるほど、しっくりきたのだという。鑑賞者が真面目に自己と向き合う様子をイメージしたそうだが、展覧会が始まってみて、少し意外な反応があったことを嬉しそうに話す。
「カーテンを開けるたびに驚いたり、驚く自分を写真に撮ったり、自分がいる空間をいろいろと演出されている方がいるのを見て、すごく楽しんでくださっていてよかったなと思いました。『試着する』ということについても、もっと楽しむきっかけになったらいいなと思います」。
本展では、インスタレーションのなかに、鑑賞者がアートとの接点を主体的に意識できるような仕掛けがいくつもちりばめられているのが印象深い。そして、それらの仕掛けが動力となり、うちなる好奇心を刺激する。さて、接点に触れたとき、どんな化学反応が起きるのか。フィッティングという個人的なアート体験を通して、じっくり探究してみてはどうだろうか。
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