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2024.10.12

「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」(東京ステーションギャラリー)開幕レポート

東京駅直結の東京ステーションギャラリーで、イギリスの生活文化を変えたと言われるデザイナー、サー・テレンス・コンランの世界観とその功績を紹介する展覧会「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」がスタートした。会期は2025年1月5日まで。

撮影・文=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、2章「起業の志──ハビタとザ・コンランショップ」
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 東京駅直結の東京ステーションギャラリーで、イギリスの生活文化を変えたと言われるデザイナー、サー・テレンス・コンランの世界観とその功績を紹介する展覧会「テレンス・コンラン モダン・ブリテンをデザインする」がスタートした。会期は2025年1月5日まで。本展監修はティム・マーロウ(ロンドン デザイン・ミュージアム館長)、キュレーターは泉川真紀。

 コンランは1940年代末からデザイナー・家具などのつくり手として活動し、64年にはライフスタイルを提案しつつプロダクトを販売するショップ「ハビタ(habitat)」の先駆的経営に成功した。現在のセレクトショップや、モダン・ブリティッシュと称された新しい料理スタイルのレストラン経営、都市開発プロジェクトやデザインミュージアムの設立、多数の著作など、ほぼ半世紀にわたってそのデザイン理念を精力的に実践し、世界中に影響を与えてきた人物だ。

サー・テレンス・コンラン バートン・コート自邸にて 2011 Photo=Julian Broad

 本展は、コンランが提案し続けた「生活の質に意識的になること」によって、誰でも入手可能であるモダンなライフスタイルや、「PLAIN, SIMPLE, USEFUL(無駄なく、シンプル、機能的)」をキーワードに、様々な資料やインスタレーションを用いてコンランの世界観とその功績を紹介するものとなっている。

 開催に先立ち、監修を務めたマーロウとキュレーターの泉川は次のようにコメントしている。「コンランを際立たせるのはデザインされたもののみならず、人々が願うライフスタイルを実現してきたことにある。デザインとは、エリート趣味ではなく、様々な視点に立って課題に向きあう姿勢そのものだ。コンランの功績はそれを示している」(マーロウ)。「本企画は約3年前にコンランショップ・ジャパンから持ち込まれたもの。会場ではコンランの姿を前面に見せるのではなく、製品や資料、そして周縁の人々のインタビュー映像によってコンランの功績にせまる仕立てとしている」(泉川)。

展示風景より、1章「デザイナー、コンランのはじまり」

デザイナー、そして起業へ

 3階と2階に分かれる会場では、コンランの功績を8つのセクションに分けて紹介。最初の展示室では、戦後不況のなかにあったイギリスでデザイナーとして身を立てた若きコンランの取り組みや、コンラン・ファブリックス、コンラン・ファニチャーなど起業の道にも歩みを進めた姿を様々な製品や周縁人物によるインタビュー映像から紹介している。

展示風景より、食器製造会社ミッドウィンター社がコンランに依頼して制作した「チェッカーズ」シリーズ。若きコンランは食器やテキスタイルのデザインで注目を浴びはじめた
展示風景より、1章「デザイナー、コンランのはじまり」

 やがて、1956年にインテリアやグラフィックまで手がけるコンラン・デザイン・グループを設立したコンランは、デザイナーのみならず「テイストメーカー」としての側面を際立たせることとなる。64年にはライフスタイルの提案をテーマに小売店「ハビタ(habitat)」を立ち上げ、ハビタが国際的に成功した73年には「ザ・コンランショップ」をオープン。独自の生活環境を提案するこのスタイルは世界のデザイン市場に大きな影響を与えたという。

展示風景より、2章「起業の志──ハビタとザ・コンランショップ」。これは60年代のハビタで実際に販売されていた製品
展示風景より、2章「起業の志──ハビタとザ・コンランショップ」。ハビタのカタログ
展示風景より、2章「起業の志──ハビタとザ・コンランショップ」

多くの時間を過ごした「バートン・コート邸宅」

 コンランについて、日本では前述の「ザ・コンランショップ」のイメージがもっとも強いのではないかと考えるが、ライフスタイルの提案の一環として、じつは80年代半ばにかけてコンランが「食」そして「レストラン」事業へ取り組んでいたことをご存知だろうか? 3章では、高級レストランからカジュアルなカフェまで、コンランが様々な食体験の場を提供していたことが伺える資料が紹介されている。

展示風景より、3章「食とレストラン」
展示風景より、3章「食とレストラン」。コンラン・グループの広報誌としてつくられたこの「コンラン・マップ」には、コンランによる店やレストランが描かれている

 コンランは、70年代後半からロンドン中心部より西に100キロほど離れたバークシャー州に「バートン・コート邸宅」を構え、晩年まで多くの時間をこの地で過ごした。ここでは、コンランにインスピレーションを与えたものの写真や仕事部屋に置かれていたもの、そして庭いじりを楽しむコンランのプライベートな様子までが数多くの資料からうかがい知ることができる。

展示風景より、4章「バートン・コート自邸」
展示風景より、4章「バートン・コート自邸」
展示風景より、4章「バートン・コート自邸」。コンランがインスピレーションを受けたものが写真とコメントで紹介されている
展示風景より、5章「ものづくり──ベンチマークとプロダクツ」

誰もが「デザイン」にアクセスできる場所をつくる

 ハビタの成功から様々な事業を展開させてきたコンランは、1980年には建築家フレッド・ローチと建築設計会社を設立。建築とデザインを融合させ、ロンドンの街並みを大きく変えることにも挑戦した。各章にはその領域の周縁人物のインタビュー映像が流されているが、ここでは昨年六本木ヒルズ森タワーで大規模な個展を開催した建築家トーマス・ヘザウィックによるコメントも見受けられた。

展示風景より、6章「再生プロダクトと建築/インテリア」
展示風景より、6章「再生プロダクトと建築/インテリア」

 日本には現在6店舗の「ザ・コンランショップ」が存在するが、1号店(1994、西新宿)が日本に初上陸したのは約30年前のことだとコンランショップ・ジャパン代表取締役社長・中原慎一郎は語る。7章「日本におけるプロジェクト」では、日本に進出したコンランショップがどのように受容されてきたかといった変遷についても各人のコメントや当時の情報誌から紹介されている。

展示風景より、7章「日本におけるプロジェクト」

 コンランは代表的な著書『The House Book』(1974)といった住宅に関するアイデア本のほか約80冊以上に生涯携わったほか、ヴィクトリア&アルバート博物館(V&A)の一角ではデザインの小展示を企画、そしてロンドンには産業デザインをメインとした世界初の「デザイン・ミュージアム」(1989、2016にケンジントンへ移転)を開館させた。

 デザインに始まり、様々な領域を横断しながらより豊かな人々の暮らしを生み出してきたコンラン。だからこそ、冒頭で現デザイン・ミュージアム館長のマーロウが述べたように「(デザインは)エリート趣味ではなく、様々な視点に立って課題に向きあう姿勢」であるということを誰よりも理解し、書籍から企画展、ミュージアムに至るまで「誰もが『デザイン』にアクセスできる場所」の必要性を強く感じていたのではないだろうか。

展示風景より、8章「未来にむけて」

 デザインという言葉が幅広い意味を持つようになった今日において、コンランが生涯をかけて実践してきたことはむしろ自然な流れであると言える。デザイナーであるかどうかに関わらず、身の回りにある課題についてどのような目でとらえることができるのか。本展はコンランの功績からそのような柔軟な視点を学ぶことができるものでもあるだろう。

 なお、同ギャラリーにほど近い新丸の内ビルにはザ・コンランショップ 丸の内店もあるため、こちらにも鑑賞後に足を運んでみることをおすすめしたい。

展示風景より、8章「未来にむけて」
展示風景より、8章「未来にむけて」
展示風景より、8章「未来にむけて」