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2024.10.30

「ポケモン×工芸展」(麻布台ヒルズギャラリー)見どころレポート。多様な技とポケモンの化学反応

これまで国立工芸館(石川)をはじめ、アメリカや日本各地で巡回開催されてきた「ポケモン×工芸展-美とわざの大発見-」展が、ついに東京で開催される。会期は11月1日〜2025年2月2日。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

展示風景より、吉田泰一郎《ミュウツー》(2024)
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約80点が勢揃い

 昨年3月から6月にかけて金沢の国立工芸館で開催され、大きな話題を呼んだ「ポケモン×工芸展-美とわざの大発見-」展。この展覧会が、麻布台ヒルズギャラリーで幕を開ける。会期は11月1日〜2025年2月2日。

 ポケモンと工芸の出会いから生まれる「化学反応」をテーマにした本展。人間国宝から若手アーティストまで20作家が参加し、ポケモンの姿や動作、雰囲気を表現した作品や、進化や通信、旅の舞台などゲームの要素を取り入れた作品を展示している。

 東京の展示では、これまでの巡回展からさらにバージョンアップし、新たに数名の作家による追加作品を含めた約80作品が展示。出品作家には池田晃将、池本一三、今井完眞、植葉香澄、桂盛仁、桑田卓郎、小宮康義、城間栄市、須藤玲子、田口義明、田中信行、坪島悠貴、新實広記、林茂樹、葉山有樹、福田亨、桝本佳子、水橋さおり、満田晴穂、吉田泰一郎などが名を連ねている。

 展示は、「すがた〜迫る!〜」「ものがたり〜浸る!〜」「くらし〜愛でる!〜」の3セクションで構成。ハイライトを紹介したい。

「すがた〜迫る!〜」

 会場冒頭を飾る「すがた〜迫る!〜」では、彫金を駆使する吉田泰一郎による《サンダース》をはじめとするイーブイとその進化系が迎えてくれる。彫金の煌めきによる表皮によって、ポケモンの属性が見事に表現された作品群だ。また吉田は本展のために、新作として約2メートルもの大作《ミュウツー》を制作。全身が様々なポケモンをかたどった薄い金属で覆われた力作で、鑑賞者と対峙するように佇む。

展示風景より、吉田泰一郎の作品群
展示風景より、吉田泰一郎《ミュウツー》(2024)

 本セクションでは、高い写実性と皮膚の凹凸感が力強い印象を与えている今井完眞によるフシギバナなど、精巧な自在置物で知られる満田晴穂によるギャラドス、福田亨の木象嵌、葉山有樹の《森羅万象ポケモン壺》など、各作家が磨いてきた技術をふんだんに駆使したポケモンたちが集結。それぞれのポケモンのフォルム、皮膚、毛並みなどがどのように表現されているかに注目してほしい。

展示風景より、今井完眞の作品群
展示風景より、満田晴穂《自在ギャラドス》(2022)

 次の「ものがたり〜浸る!〜」で、まず目に飛び込んでくるのは、須藤玲子による《ピカチュウの森》だ。ニードルレースによって生み出された膨大なレースリボンに無数のピカチュウたちが連なり、まさに森のようなインスタレーションとなっている。

展示風景より、須藤玲子《ピカチュウの森》(2022)
展示風景より、須藤玲子《ピカチュウの森》(2022)

 田中信行は、漆の「漆黒」を用いて、ゴーストタイプポケモンの技である「かげうち」を表現。高さ2メートルもの作品は吸い込まれるような黒さをたたえている。いっぽう新實広記は、こおりタイプの「つららおとし」をガラスで表現している。

展示風景より、田中信行《無題》(2022)
展示風景より、新實広記《Vessel -TSURARA-》(2022)

 新技術によって、近未来的な世界観を伝統的な螺鈿技法に取り入れた「サイバー螺鈿」で知られる池田晃将は、モンスターボールやポケモンを交換するときの通信中の様子などを螺鈿によって生み出した。ポケモンが住まうデジタル世界との相性は抜群だ。

展示風景より、池田晃将《電線光環中次》(2022)

 『ポケットモンスター ソード・シールド』で初めてゲームを体験した池本一三。本展では、ポケモントレーナーによる冒険の世界を立体絵巻のように出現させた。

展示風景より、手前は池本一三《冒険のはじまり》(2022)

「くらし〜愛でる!〜」

 最後のセクション「くらし〜愛でる!〜」では、器や着物、装身具などに姿を変えたポケモンを見ることができる。

 もっとも存在感を示すのは、桑田卓郎だろう。釉薬が塗られた磁器のフォルムに質感ある金属をダイナミックに組み合わる作品で知られる桑田は、膨大な数のタイルやカップ、ボウルを転写シートのピカチュウで彩る。

展示風景より、桑田卓郎の作品群
展示風景より、桑田卓郎の作品群

 彫金の人間国宝である桂盛仁の香合はルギアとホウオウによって輝きを放ち、小宮康義は江戸小紋にゲンガーやゴースト、フライゴン、ガラルマッギョを宿した。

展示風景より、桂盛仁《香合 ホウオウ》《香合 ルギア》(ともに2022)

 器と装飾の主従関係を壊すことをテーマとしている桝本佳子は、焼きものと切っても切り離せない炎を宿す「ほのおタイプ」のポケモンとして、リザードンやヒトカゲを信楽焼の壺で表現。キャラクターの強さが器としての機能を飲み込むような作品群だ。

展示風景より、桝本佳子の作品群

 本展最後には、《唐草文サルノリ》《火炎文ヒバニー》、そして新作となる《蔦唐草文ジュペッタ》《蒼炎文ヒトモシ》など、植葉香澄による文様で覆い尽くされたポケモンたち祝祭的に並ぶ。

展示風景より、植葉香澄《唐草文サルノリ》(2022)
展示風景より、植葉香澄《蔦唐草文ジュペッタ》と《蒼炎文ヒトモシ》(ともに2024)

 日々の仕事によって練られた高い技術力があってこそ生み出された今回のポケモンたち。各作家によるポケモンの解釈、アプローチはまさに多種多様であり、本展を見れば、ポケモンというメディアの拡張性の高さと工芸の技に、あらためて驚かされるはずだ。

 なお、本展では下階のミュージアムショップで様々なグッズが販売されるとともに、コラボカフェでは限定メニューが楽しめる。あわせてチェックしてほしい。

コラボカフェの限定メニュー(一例)

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