2024.11.1

「TODA BUILDING」が開業。アートとビジネスの新拠点目指す

東京駅からほど近い京橋エリア。ここに11月2日、「TODA BUILDING」が開業した。アートとビジネスが交錯する新拠点だ。

文・撮影=橋爪勇介(ウェブ版「美術手帖」編集長)

TODA BUILDINGエントランス
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 東京にまたひとつアートの拠点となる施設が生まれた。それが、戸田建設による「TODA BUILDING」(以下、TODAビル)だ。

 同ビルが位置するのは、東京の玄関口である東京駅から徒歩圏内の京橋。2019年に開館したアーティゾン美術館を含む「ミュージアムタワー京橋」に隣接するもので、「京橋彩区」として開発が進められてきた。

 戸田建設は1898年以降、120年にわたってこの地に拠点を置いてきた。5代目社屋でもあるこのビルは地下3階28階建て。8~27階はオフィスフロアとなっているが、注目したいのはその低層部である1~6階。このフロアは戸田建設のアート事業「ART POWER KYOBASHI」を中心にした芸術文化施設で構成される。同社にとってはこれまでにない挑戦だ。

 大谷清介社長はこのビルを「100年に一度の事業」と位置付け、「京橋の特性を活かし、芸術文化の発展拠点としての役割を担う。京橋の街とともに新たな文化を創出したい」と意気込みを見せた。その芸術文化の重要な部分を担うのが、パブリック・アートプログラム「APK PUBLIC」だ。

TODA BUILDING外観

パブリック・アートプログラム「APK PUBLIC」

 1階〜2階を高さ約16メートルの巨大な吹き抜け空間のエントランスロビーとその吹き抜け空間を取り囲む回廊(アートコリドー)には、「ART POWER KYOBASHI」の核となるパブリックアート・プログラム「APK PUBLIC」が展開される。オフィステナントのワーカーだけでなく一般来館者もアクセス可能な共用スペースに作品を展開することで、誰もが気軽にアートに触れる機会を提供するものだ。恒久設置ではなく更新性を持たせることでビルの雰囲気に変化を与え、来街するリピーターも呼び込みたい考えだ。

「APK PUBRIC Vol.1 螺旋の可能性──無限のチャンスへ」展示風景より、持田敦子《Steps》(2024)

 第1回目のパブリックアート・プログラムは、国内外で活躍するキュレーター・飯田志保子を迎え、「APK PUBRIC Vol.1 螺旋の可能性──無限のチャンスへ」をテーマに、野田幸江、毛利悠子、小野澤峻、そして持田敦子の作品が2026年3月までの約1年半にわたって展示される。

 持田は間口が約120メートルにおよぶ広場(アートスクエア)と館内エントランスの吹き抜けに、本展を象徴するような螺旋階段の巨大作品《Steps》を展示。機能から解放された螺旋階段の曲線は繊細でありながらダイナミックだ。なお、作品の一部は実際に上ることもできる。

「APK PUBRIC Vol.1 螺旋の可能性──無限のチャンスへ」展示風景より、持田敦子《Steps》(2024)

 毛利は、国立科学博物館に収蔵されている「地震動軌跡模型」をモチーフとしたこれまでにない4点の彫刻作品を制作。地球のエネルギーがポップな色のパイプによって表現された。

展示風景より、毛利悠子《分割された地震動軌跡模型 Ⅰ-4》(2024)

 野田は、2年間にわたり京橋エリアをフィールドワークし、同地域で入手した素材をもとに3つの作品を構成。都市の生態系が集積した力作だ。

展示風景より、野田幸江《garden -b- 〈地層になる〉》(2022-24)
展示風景より、野田幸江《garden -a- 〈この風景の要素〉》(2024)

 小野澤の《演ずる造形》(2024)は6つの球体が一定の速度でずれながら振り子のように揺れ動く作品で、キネティック・スカルプチャーであると同時にパフォーマンスアートとしての要素も持つ。

展示風景より、小野澤峻《演ずる造形》(2024)

 「ART POWER KYOBASHI」ではこのパブリック・アートのほか、ラーニングプログラム「APK STUDIES」も展開することで、アートにつながる新たなコミュニティ形成を目指す。

ギャラリーカフェ

 1階には「ArtSticker」を運営するThe Chain Museumと「THE CITY BAKERY」を運営するフォンスによるアートギャラリーとベーカリー&カフェを併設した「Gallery & Bakery Tokyo 8分」も入居。日常の延長線上に、アート作品の鑑賞体験を提供することを目指す。

 空間設計は建築家・元木大輔が率いるDDAAが担当。6メートルほどの高さがある展示壁を持ち、200平米のスペースを仕切りなくひとつの空間とすることで、遠くからも作品を眺められる開放的な展示が可能だ。こけら落としは友沢こたお個展「Fragment」。展示は1ヶ月に1回のペースで変更される予定だという。

友沢こたお「Fragment」展示風景
友沢こたお「Fragment」展示風景

ギャラリーコンプレックス

 3階には、タカ・イシイギャラリー(六本木など)、小山登美夫ギャラリー(六本木など)、KOSAKU KANECHIKA(天王洲)、Yutaka Kikutake Gallery(六本木)の4ギャラリーが入居。いずれも東京にベースを置く、日本を代表する現代美術ギャラリーだ。

ギャラリーコンプレックスへの入り口

 京橋エリアは古くから古美術商や画廊などが軒を連ねているが、ここに現代美術のギャラリーが本格的に進出することとなる。アーティゾン美術館とのあいだで送客の相乗効果も期待できる。

 各ギャラリーは異なる内装デザインとなっており、タカ・イシイギャラリーは田根剛、小山登美夫ギャラリーは西澤徹夫、KOSAKU KANECHIKAは石田建太朗、Yutaka Kikutake Galleryは植原雄一が手がけた。いずれも天井高もあり、しっかりした広さが確保されたスペースだ。

タカ・イシイギャラリー展示風景
小山登美夫ギャラリー 杉戸洋個展「apples and lemon」展示風景
KOSAKU KANECHIKA 十三代 三輪休雪「エル キャピタン」展示風景
Yutaka Kikutake Gallery「ささめきあまき万象の森」展示風景

 それぞれのこけら落とし展覧会は、タカ・イシイギャラリーがグループ展(〜12月14日)、小山登美夫ギャラリーが杉戸洋個展「apples and lemon」(〜12月7日)、KOSAKU KANECHIKAが十三代 三輪休雪「エル キャピタン」(〜12月14日)、Yutaka Kikutake Galleryが奈良美智が企画した「ささめきあまき万象の森」(〜12月21日)となる。

CREATIVE MUSEUM TOKYO

 4階はコンサートや展示会などが開催可能なイベントホール。そして6階にはソニー・クリエイティブプロダクツが運営する「CREATIVE MUSEUM TOKYO」が入居する。館長はブリヂストン美術館学芸員やスヌーピーミュージアム館長などを務めてきた中山三善だ。

 同館では、アニメ、マンガ、音楽といったポップ・カルチャーや現代アート、デザインなど多彩な領域のクリエイションとの出会いを創出することを掲げ、年間4本の展覧会を実施する(こけら落としは「アニメ『鬼滅の刃』 柱展ーそして無限城へー」、〜2025年3月2日)。

CREATIVE MUSEUM TOKYO
「アニメ『鬼滅の刃』 柱展ーそして無限城へー」展示風景

 渋谷エリアや麻布台・神谷町エリアなど、大規模化開発が続く都心。そのなかでも、このTODAビルは本社機能とオフィス機能、そして広大な文化施設機能を同時に有する稀有なものだ。ましてや、パブリック・アートを固定ではなく自社で更新していくという独自性は強い。東京駅徒歩圏内という好立地で、TODAビルは強力な文化の発信拠点となるだろう。